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職場がタバコ臭くて困る!会社には受動喫煙対策をする義務はある?

更新日:2024年01月30日
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ひと昔前とは違い、現在は、公共の場で基本的にたばこを吸うことが許されなくなりました。
喫煙は身体へよくない影響があるのも事実ですが、喫煙者のマナー問題も相まって、愛煙家はとても肩身の狭い思いをしているでしょう。

会社のオフィスでも、喫煙しながら仕事をするのは論外とされています。
しかし、スモーキングルームで休憩がてらタバコを吸っても身体にまとう臭いは消えず「タバコ臭い」と思われてしまいます。
本記事では、会社での喫煙をめぐる問題について解説します。

喫煙をめぐる権利・法規制は?

日本では、憲法で国民には基本的人権が保障されています。
憲法には、さまざまな権利が規定されています。
そして、より包括的な条項として、憲法13条後段は以下を定めています。

生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

これを「幸福追求権」といいます。
この幸福追求権のひとつとして、「喫煙権」という権利が基本的人権として何の制限もなく容認されるものかは、とても気になるところですね。
これに関しては、最高裁は以下のように示しています。

タバコを毎日2箱以上も吸っていた愛煙家のAは、ある時法律に違反し逮捕され、未決勾留期間中、看守に喫煙の許可を求めたものの拒否されました。また、Xは口頭によるお願いだけではなく喫煙許可の請願状を提出しましたが、それも回答されず、釈放時まで禁煙するほかありませんでした。
Xは、当時、
「在監者には酒類又は煙草を用うることを許さず」
という監獄法施行規則96条が憲法の内容に反すると主張。そして、国家賠償を求め訴えることにしました。

しかし、第一審、控訴審ともXの請求を棄却した最高裁は「タバコは生活必需品とは言い難く、ある程度普及率の高い嗜好品にすぎない。禁煙は、タバコの愛好者に対しては大きな精神的苦痛になるにしても人体に直接被害を生じさせるものでない。喫煙の自由は、憲法13条の保障する基本的人権の一に含まれるとしても、あらゆる時、所において保障されるものではない。」との内容を示したうえでXの上告は棄却となりました(最大判昭45.9.16民集24-10-1410) 。

これは嫌煙権との対立ではなく、あくまでも刑事施設の管理・収監の目的との関係で喫煙の自由に制限がかかるという判断です。
実際に学説上も、喫煙の自由は憲法13条の範囲に含まれるものの喫煙を制限することについての合憲性は、ケースに応じて柔軟に判断されるのが実態です。

社内でタバコを吸えるような会社の体制は法律的にどうなのか

労働契約法5条では、使用者が「安全配慮義務」 を負う旨を定めています。
安全配慮義務とは、労働者が生命・身体等の安全を確保しながら働けるようにすることです。
安全配慮義務の具体的な内容としては、危険作業や長時間労働、うつ病自殺等の場面で会社の責任を問うような状況が一般的です。

そして、この安全配慮義務からは、使用者が受動喫煙をさせないように会社のオフィス環境を整える義務もあると言えます。
また、「健康増進法」という法律も存在します。
健康増進法は、健康調査や保健指導などによって、国民の健康の増進を図ることについて定めた法律です。この一環として、第25条は、受動喫煙の防止について下記のように定めています。

学校、体育館、病院、劇場、観覧場、集会場、展示場、百貨店、事務所、官公庁施設、飲食店その他の多数の者が利用する施設を管理する者は、これらを利用する者について、受動喫煙(室内又はこれに準ずる環境において、他人のたばこの煙を吸わされることをいう。)を防止するために必要な措置を講ずるように努めなければならない。

当然ながら「職場」も「多数の者が利用する施設」に該当します。
したがって、会社も、受動喫煙防止対策を行う義務を負います。さらに、平成27年6月からは、労働安全衛生法の改正によって、下記のとおり、事業主に労働者の受動喫煙防止の義務を課す条項が加えられました。

(受動喫煙の防止)第68条の2 事業者は、労働者の受動喫煙(室内又はこれに準ずる環境において、他人のたばこの煙を吸わされることをいう。第71条第1項において同じ。)を防止するため、当該事業者及び事業場の実情に応じ適切な措置を講ずるよう努めるものとする。

一見すると条文の内容は健康増進法25条とほぼ同じですが、「事業者」が「労働者」の受動喫煙を防止するというように主体を明言したことは注目すべきポイントです。
しかしながら、健康増進法25条と労働安全衛生法68条の2の末尾が「……ように努めなければならない」、「努めるものとする」というのはややこしい部分でもあるのです。
これは、「努力義務」であり、遵守しなくても法的な処罰はないということを示しています。

そのため、会社が労働者の受動喫煙を防止する取り組みについては、法律上で強制されるわけではありません。
とは言え、受動喫煙防止にまったく取り組まなかった結果として健康被害などが見られた場合は、会社は損害賠償責任を追及されないという意味でもありません。

健康被害を受けた場合、責任はとってもらえる?

先述した安全配慮義務、そして健康増進法・労働安全衛生法との関係から、もしも受動喫煙によって健康被害が発生したら会社は損害を賠償する責任を負います。
独立行政法人国立がん研究センターの情報によれば、日本では受動喫煙が原因の肺がん・脳卒中・心疾患などで年間約1万5000人が死亡していると推計されています。(厚生労働省「日本では受動喫煙が原因で年間1万5千人が死亡」

これはなんと交通事故死の3倍以上に該当し独立行政法人国立がん研究センターは、「受動喫煙は『迷惑』や『気配り、思いやり』の問題ではなく、他者被害・健康被害の問題である」という見解を示しています。
ですが、受動喫煙の健康被害が明確であっても、会社自体に責任を追及するのは簡単なことではありません。

会社で受動喫煙した期間が長くて病気にかかることは考えられても、病気の原因はさまざまです。実際に病気になったとしても受動喫煙のみならず本人の生活習慣などが原因となったことも十分考えられるため会社での受動喫煙が原因であるとは断言できないのです。
ただ、副流煙の微粒子による「化学物質過敏症」については受動喫煙と健康被害との因果関係が明確なので責任の追及がしやすくなっています。
実際に、労働者からの会社に対する損害賠償請求が認められたケースもあります。

平成18年10月に公表されたニュースでは「健康増進法で規定される分煙措置を雇用主が怠り受動喫煙により化学物質過敏症を患ったとして、北海道当別町の会社員が札幌市東区の会社に慰謝料100万円の支払いを求めた調停が札幌簡裁で行われた。結果として、同社が示談金80万円を払うことで調停が成立した」という事例がありました。

分煙していても臭いは感じる!これは我慢すべき?

2015年に発表された帝国データバンクの調査によれば、職場を全面禁煙としている会社は24%ですが、完全分煙を含めると79%にのぼり、職場における禁煙・分煙の措置は一気に浸透しています。(帝国データバンク「従業員の健康管理に対する企業の意識調査」

ただし分煙レベルでは、臭いまでは防げません。
例えば、オフィスビルの1階のみが喫煙スペースになっていたとしてもエレベーターがその近くにあればエレベーターのなかにタバコの臭いが付いてしまいます。
健康増進法に関して、厚生労働省が受動喫煙防止についての通達を出しているところ(厚生労働省「平成22年2月25日健発0225第2号」)に受動喫煙防止の基本的な方向性は「原則として全面禁煙であるべき」と示しています。

この通達を参照すれば、会社としても職場を全面禁煙にすることが理想です。ただ、それは先に説明した通り「努力義務」にすぎないため、労働者や労働組合などが会社へ受動喫煙対策を強化するように依頼しても、会社としては応じる義務を持っていません。
タバコの臭いが服に付着して精神的苦痛を感じたと主張し、慰謝料等を請求することもできますが、実際に高額の慰謝料が認められることはまずありません。
職場での受動喫煙について労働者からの慰謝料請求を認めた、江戸川区(受動喫煙損害賠償)事件(東京地判平16.7.12労判878-5)でも、慰謝料として5万円が認められた程度です。
最近公刊された裁判例における慰謝料請求は基本的に棄却されています(一方、臭いだけでも化学物質過敏症が引き起こされるようなケースは、含みません)。

タバコの臭い問題について会社に改善を求める

職場においてタバコ臭に関する問題は起こり得るものです。人によっては少しタバコの臭いを嗅ぐだけで不快な気持ちになることもあります。
喫煙者も禁煙者がともに同じ会社内で気持ち良く仕事をするには会社側に対策を求めることも一つの選択肢です。
可能であれば、下記のような要望を出してください。

  • 換気の徹底
  • 空気清浄機の導入
  • 喫煙者がタバコを吸った後は消臭スプレーをかけるように呼びかける
  • 喫煙後はマウスウォッシュを使うように呼びかける

上記は一部の例です。他にも、状況に応じて喫煙に関する社内ルールをつくってもらうのも良いでしょう。
タバコの臭いで、仕事に支障が出るのは元も子もありません。

また、タバコの臭いを不快に思う人は少なくないので、思い切って要望を出せば他の人たちのためにもなるかもしれません。

職場の臭いトラブルは弁護士へ相談を

臭いについては、感じ方に個人差もあります。
ですが、タバコ臭だけでなく職場での不快な臭いをそのままにしておけば大きな人間関係トラブルへ発展しかねません。
もし職場の人間関係でつらい思いをしているのであれば、労務に精通した弁護士へ相談するのもおすすめです。
ただ、弁護士へ相談となると費用面での負担について悩ましく感じる人も少なくありません。

そのような方におすすめなのが、ベンナビ弁護士保険です。

弁護士保険とは、個人的なトラブルや事業活動で発生した法的トラブルに対して、弁護士に相談した際にかかってくる費用を補償する保険サービスです。

通常であれば弁護士を利用してトラブルの解決を試みると、数十万から数百万単位もの高額な費用が必要になります。
しかし、弁護士保険に加入しておけば、法的トラブルが発生した場合に弁護士を利用しても支払額を抑えられます。
気になる方はぜひ、ベンナビ弁護士保険をチェックしてみてください。

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編集部

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