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取締役(役員)の実態とは?知られざるデメリットや責任について解説

更新日:2024年01月30日
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「取締役」と聞けば、会社の方針の決定権を持つ華々しい立場をイメージする人も多いでしょう。

しかし、実は「出世したくない人が出世したい人を上回った」という、興味深いアンケート結果があるのです。

実際に、このような悩みを持つ方もいます。

『現在、部長の役職に就いていますが、社長から「取締役にならないか」と聞かれました。本来であれば嬉しいことではあるのですが、その分責任も重くなるのが懸念点で少し考える時間をもらっています。実際に取締役になるとどんなデメリットがあるのかと考えると恐ろしいです。』

現実的な話、取締役と従業員とには驚くほどの違いがあります。

そこで本記事では、取締役と従業員を比較しつつ取締役になるデメリットを解説します。

そもそもどういう順に偉くなる?

通常、入社した際は平社員として働くことになり、時間をかけて昇進していきます。
役職名は会社によっても異なりますが、主任<係長<課長<次長<部長(執行役員)常務<専務<社長<会長といった順番で偉くなります。

従業員(労働者)と取締役で異なる点

先程示した例でいうと、一般的には部長(執行役員)までが従業員です、そして、その上には平(ひら)の取締役がいます。
そして、その上の常務以降が取締役に使われる役職名になります。
取締役は、「会社法」という法律で定義される役職で、業務内容は「会社の方針を決定すること」です。
取締役が数名いる場合は、「代表取締役」が選ばれます。代表取締役は、その名の通り「代表」として意思決定をしたり、自分の名前で会社を代表して契約を締結することができます。
取締役は、会社との間で労働契約を締結しているわけではなく株主総会によって選ばれ、会社との間で「委任契約」
を締結します。
このため、労働法によって守られる「労働者」という立場ではなくなります。

労働者として守られないという状況は、さまざまなデメリットがあります。
例えば、どれだけ仕事をしても残業代は出ません。なお、年次有給休暇も与えられません。雇用保険の適用もありませんので、突然解任された場合も失業給付金をもらえません。
原則として労災保険にも入れないので、業務中に怪我をした場合でも何の保障もなく、業務中の怪我には通常の健康保険を利用できないので、病院代は全額自己負担です。
会社が破産したときに報酬の未払いがあっても労働者の給与のように優先的に取り扱われないので、「未払賃金立替払制度」も利用不可。
上述したように、取締役になることで発生するデメリットは想像以上に多いのです。
では、取締役を引き受けることになった場合は、どのような点に注意すべきでしょうか。

取締役の就任から退任まで

先述したように、取締役は株主総会の決議によって選ばれ、会社と委任契約を結びます。
株式会社のオーナーである株主が、「会社の方針決定を誰に任せようか」と考えて選ぶことになります。
もし社長が「〇〇さんを取締役として選出したい」と考えても、会社の株式を保有していなければ、取締役を選任する権利はないのです。

正当な理由なしで解任させられることはない

では、取締役を辞任するときはどうでしょうか。
実は選任のときと同様に、株主が「今の取締役にこれ以上会社を任せられない」と考えた場合は、これもまた株主総会の決議により「解任」できます。
労働者が解雇されるときのような「解雇予告」はありません。
しかしこのとき何の保証もないのかと言えば、そういうわけでもありません。
例えば、「長期入院をする」「あまりにも無能だ」といった正当でない理由で解任されるようなことがあれば、任期満了までの役員報酬を損害賠償請求できます。
そして反対に、取締役自ら「辞任」することは、任期の途中であっても可能です。
なぜなら民法651条に、委任契約はいつでも解除できる旨が定められているからです。

取締役の労働条件と役員報酬は

取締役といえば、高級車に乗って休日はお金をかけて外食をして…などと贅沢な暮らしぶりをしているイメージが浸透しています。
では実際に、「役員報酬」はどう決まるのでしょうか。
役員報酬は手続上、これも株主総会の決議で決定することとなっています。

役員報酬は経営陣自ら決められない

もし、経営陣自らが自分たちの報酬を決定できるとなれば、どれだけでも高く設定できてしまうでしょう。
そこで、それを防止するためにこれまた株主が総会を開いて報酬を決めるという仕組みが確立されています。

実際には、株主総会では役員報酬の総額だけを決めて取締役間の配分に関しては取締役会で決定する、という方法もよくみられます。
定時株主総会は、年1回、会社の決算日から3か月以内に行われます。
役員報酬もその定時株主総会で決めるため、原則として役員報酬の額は1年度を通じて定額となります。

ただし、会社の資金繰りの悪化、取締役の経営上の責任といった特殊な事情にある場合は、年度途中であっても臨時に株主総会を開催して役員報酬を減額することは可能です。

取締役のボーナスと収入

一方、会社の業績がよかった場合も、年度途中に役員報酬を増やしたり、臨時ボーナスを支給したりすることは、通常ありません。
これは会社の利益額を調整する「脱税行為」に該当するため、税法上、損金算入が認められないためです。

社会保険には加入可能

労働者が加入する社会保険に、取締役は加入できるのでしょうか。
被保険者とは「事業所に使用される〔者〕」と定められています(健康保険法3条、厚生年金保険法9条)。

取締役は会社との間で委任契約を結んでいるため、「使用される者」とは言い難いため社会保険には加入できなさそうです。
しかし、実はこの点は古い通達があって、原則として取締役であっても社会保険に加入できることになっています。
取締役も会社から労務の対象として報酬を受けていることを考慮すれば各法にいう「使用される者」に該当します。
そのため、社会保険には加入させましょうというような主旨になっているのです。

「取締役」であることによるローン審査への影響

取締役が個人でローンを組む際、取締役に就いていることはローン審査にどう影響するのでしょうか。
これは、ケースバイケースでありますが会社員に比べるとマイナスになることも多いのが実情です。

特に住宅ローンなどのように長期間にわたる借り入れをする場合、継続的な収入も審査の重要な要素になります。
また、取締役の場合、2~3期分の決算書の提出も求められます。その理由は、会社が継続的に経営できるかがポイントとなるからです。
したがって、いくら源泉徴収票上は役員報酬が高額でも、会社が長期にわたり黒字を出せていない場合や会社の設立から間もないといった場合は、審査が通らないことがあります。

実際に、投資用マンションを販売する営業マンは顧客が社長や取締役だとローン審査が通りにくいことをよくわかっているので、一般社員を狙って営業しています。

取締役の義務・責任

ここで取締役の責任についても説明します。
取締役の責任は、会社に対して負う責任と、第三者に対し負う責任との2つがあります。

会社へ対して負う責任とは

まず、会社に対して負う責任についてです。
取締役が任務を怠ったときは、会社に生じた損害賠償責任を負う「任務懈怠(けたい)責任」が生じます。
会社と取締役との間には労働契約ではなく「委任契約」が結ばれています。そこで取締役は「善良なる管理者の注意」をもって職務にあたらなければいけないとされています。
これを善管注意義務と呼び、簡単に言えば「取締役として通常期待されている程度の抽象的・一般的な注意義務があります。そういう注意を持って、会社の重要な業務執行の決定をしてください。」ということです。

ここまでは民法上の義務ですが、会社法は、この善管注意義務をより明確にした「忠実義務」を、取締役に対して負わせています(355条。なお、善管注意義務とは異質の義務であるとする学説もあります)。
取締役は、法令や定款(会社の目的や組織などについての基本規則)、そして株主総会の決議を遵守し、会社のために誠実に職務を行う必要があります。
経営の専門家である取締役が、注意深く誠実に経営判断を行っているのであれば、その判断が偶然裏目に出てしまったとしても、その責任を負わせることは不適切です。
これを「経営判断の原則」といいます。
ただ、「会社のために」とは言え、これが一番難しいところでもあるのです。
例を挙げれば、「競業避止義務」や「利益相反行為」といって、取締役が自分や他の第三者のために会社と取引をしようとする際は、取締役会の承認が必要となります。
そして、もしもその取引で会社に損害が発生してしまった場合には、経営判断の原則は適用されません。その取引をした取締役はもちろんのこと、取締役会での決定内容に同意した取締役までも任務懈怠責任を追及されます。
取締役は会社の重要事項を決定できますがその分良くも悪くも会社に与える影響が大きいので、厳しく責任を追及されることになるのです。

第三者へ対して負う責任とは

また、第三者に対する責任はいかがでしょうか。
例えば、取締役が不適切な経営をしていた結果として会社が倒産し売掛金や貸付金の回収が困難となってしまった場合や取締役の行為に重大な過失があった場合には、第三者が被った損害を賠償する責任を追及されます。

実際、株主が取締役の法的責任を追及する「株主代表訴訟」は増加しています。
ただし、取締役が常日頃から多額の賠償責任に怯えながら経営をしていくとなると、判断自体が消極的になり会社の発展が見込めないリスクも生じます。
なお、そもそも取締役を引き受けようとする人がいないといった状況にもなりかねません。
そこで、2001年には取締役の責任を軽減する制度が整えられました。
まず、取締役の任務懈怠責任のなかで、軽い過失に関しては一部その責任を免除されることになっています。
「一部」というのは、取締役が負うべき「最低責任限度額」というものが存在するからであり、例を挙げると、代表取締役は年報酬の6倍、それ以外の取締役は4倍、社外取締役は2倍となっています。
この一部免除を行うかどうかは、株主総会の決議で決められます(定款に定めのあるときは取締役会の決議でも可能です)。
そして、社外取締役は、特に責任からの救済が必要とされることから、「責任限定契約」が定められています。
株主総会等の決議が成立するかどうかが曖昧な環境では社外取締役としての保護に欠けてしまうため、そもそも軽過失の場合には賠償額を一定の範囲内にする、という契約を結ぶことができるのです。
ただし、責任限定契約を締結していても、過失が重い場合は、責任額は限定されません。

取締役の辞任後の責任と競業避止義務

以上で述べたような忠実義務・競業避止義務は、基本的には取締役である期間に限られると考えられています。
つまり、取締役を辞任すれば、その後は会社に対し特に何の義理もなくなりますし、職業選択の自由があるため、自由にして構いません。
培ったノウハウや経験を活かして今まで携わっていたのと同じ業種に就きたいというのは、当然のことでしょう。
ですが、会社側は辞めた取締役に競合となる企業を設立された場合、顧客情報やノウハウが流出してしまう可能性があります。そして、それは何としても阻止したいと考えています。
したがって、会社は取締役が辞める際は、競業避止についての合意をしてもらうことがあります。

もちろん、職業選択の自由があるので、そのような合意が常に認められるわけではありません。
例えば、「同一県内にて〇年間は競業行為をしないでください」など、競業避止義務に時間的場所的な制限を設けること、退職金を多めに出すことなど競業行為をしないための代償措置を講じてはじめて競業避止についての合意を打診できるのです。
このような有効な合意に反して競業行為をしてしまえば、損害賠償責任などに問われます。
合意がなくても、取締役在任中に顧客情報の引き抜きやノウハウの持ち出しなどを入念に準備して、退任後に競業行為に出た場合には、在任中の忠実義務等に違反しているので合意は問題とならず、違法な競業行為とみなされて損害賠償責任を問われかねません。

取締役としての責任の時効は10年である

取締役としての責任の消滅時効は10年です。
在任中に起こした義務違反について、「もう取締役を辞めたから私は関係ない」と逃げられるような制度にはなっていません。

もしも取締役を務める会社が倒産したらどうなる?

資金繰りに行き詰まり会社が破産してしまった場合、取締役はどのような法的責任を問われるのでしょうか。
原則として、取締役であるという理由のみで会社の破産に伴い法的責任を自動的に負わされることはありません。
「役員報酬を返せ」「自宅を売って金を払うべき」などと責め立てる債権者もいますが、会社は会社、取締役は取締役というそれぞれ別個のものです。会社の破産で取締役が法的責任を負うということは基本的にはありません。

ただし、取締役が会社の債務である買掛金や借金などを連帯保証していたり、自分の不動産などを担保に供していたりする場合は話が違います。

やっかいな「経営者保証」

中小企業の場合、金融機関から融資を受ける際は、基本的に必ず代表取締役やその他の取締役が債務を連帯保証しなければなりません。
これを俗に「経営者保証」といいます。
もしも会社が破産した際は、これにより債務は連帯保証している取締役にも課せられるため、私財も持っていかれることとなります。
これでは会社が破産した場合の責任を経営者が全面的に負うことになるため、破産申し立てをすることに迷いが出てしまいいっそう重大な状態を招くこともあり得ます。

それに、その事業を引き継いでくれる人を探しても経営者保証がネックで誰も寄り付かないといった弊害も生じます。
そこで、全国銀行協会と日本商工会議所が主体となり、「経営者保証に関するガイドライン」という、経営面に問題のない会社であれば経営者保証なしで融資を実行するなどといった方針を定めました。
政府系金融機関を除けば、まだあまり活用されていないガイドラインではありますが、取締役の負担を大いに軽減する措置となるため今後浸透していくのを望みます。

取締役に就くメリット

ここまで、取締役になるデメリットばかりを紹介してきましたが、実は下記のようなメリットもあります。

定年がない

取締役は、従業員のように定年がないのが一般的です。
会社に必要とされ健康であれば、何歳になっても働き続けることができます。

会社の運営に直接携われる

また、会社の運営に直接携われることも、取締役ならではです。
取締役は会社の経営を担う責任者なので、経営方針や契約に関する決定権を持っています。
自分の意思で会社を回せるのも、取締役ならではのメリットと言えます。

使用人兼務役員でデメリットを回避する方法も

ここまで、取締役ついて述べてきましたが、取締役の在り方として実は「使用人兼務役員(従業員兼務役員)」という立場があります。
これは、例えば「取締役総務部長」や「取締役工場長」といったように、従業員としての顔も持つ取締役のことです。

そして実は、会社にとっても使用人兼務役員にとっても、メリットのある制度なのです。
まず、会社としては、給与額を変動させられるようになります。上述したように役員報酬は毎月定額であり増減はないのですが、従業員としてもらう給与は、急な経営状態の変化などに合わせて変動させることができます。

また、会社は使用人兼務役員に対して従業員として残業代や賞与を支給することも可能です。
節税を目的として利益幅を圧縮したい場合などには、ウィンウィンの関係になるでしょう。
さらに、使用人兼務役員は、従業員として労働保険に加入できます。
取締役は労災補償や失業給付を受けられないと述べましたが、従業員としての立場としてこのような保護を受けられるのは、大きなメリットとなるでしょう。
もちろん、社長や専務といった肩書きを持つ人に従業員としての立場もあるというのは理解しがたい部分もあり、会社の株を一定程度持っている場合にも使用人兼務役員にはなれません。
肩書きだけでなく実態として従業員としての顔を持つ場合にのみ適用される制度ですが、双方にとってメリットのある話なので、取締役を引き受けるならはじめは使用人兼務役員からスタートできないか打診するのも選択肢かもしれません。

取締役の不当な解雇は弁護士に相談を

取締役に就任した後、「正当な理由なく解任させられてしまった」という事態も無いとは言い切れません。
真っ当な理由なく解任されることは基本的にないのですが、不適切な理由で解任された場合は一度弁護士に相談するのがおすすめです。

本当に解任が正当な理由のもとで行われたかは判断が難しい部分もありますが、不当な理由で解任された場合には、損害賠償請求も可能です。

しかし、やはり弁護士費用の負担が気になる方も多いでしょう。
そのような方におすすめなのが、ベンナビ弁護士保険です。
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