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インセンティブ(歩合給)が残業代の代わり!これって労基法的にはどう?

更新日:2024年01月30日
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ブラック企業の問題が後をたたない日本においては、サービス残業代を請求する動きが強化されていくでしょう。

また、なかにはインセンティブ(歩合給)を残業代の代わりとする会社もありますが、これではなんだか腑に落ちない気もしますね。

本記事では、インセンティブ(歩合給)を残業代の代わりとすることについて労働基準法の観点から検討していきます。
ぜひ参考にしてください。

月給に固定残業代を予め組み込んでもOK?

「残業代」と聞くと、「基本給にプラスして残業した時間分がもらえる」というイメージが浸透しています。
ですが、これはホワイト企業での話です。
世間の会社では、月給にあらかじめ固定の残業代が入っていたりサービス残業をするのが当たり前のようになっていたり、といった例が少なくありません。
では、月給に固定残業代を組み込むのは法律の観点からみて、大丈夫なのでしょうか。
過去には、月15時間分の残業時間をあらかじめ加算して基本給を支給したことを会社が主張した事例がありました。

これは、「その基本給のうち割増賃金に該当する部分が明確に区分され合意がされ、かつ労基法所定の計算方法による額がその額を上回るときはその差額を当該賃金の支払期に支払うことが合意されている場合」は有効であると裁判所は判断しました(小里機材事件/最高裁 昭和63年7月14日判決)。
上記を言い換えると、基本給と固定残業代が明確に区別されており、予定した時間(この事例では15時間)を超過して残業した場合は差額を精算するべきであるということになります。

100時間の残業代を組み込むことはOK?

では、100時間といった極端な時間の固定残業代をあらかじめ組み込んでおけば、プラスして割増賃金を支給しなくても良いのでしょうか。

これはまずは「最低賃金」の問題が生じます。
例として、月の所定労働時間が160時間の会社があるとしましょう。
ここで月給18万円のうち基本給が10万円、固定残業代が8万円(約102時間分)として支給されるといった合意をした場合、基本給に対する時給を計算すると625円となります(10万円÷160時間=625円)。

これでは、最低賃金を下回ることになるので合意が成立しません。

なお、そもそも「100時間」の残業は長すぎます。

「95時間分の固定残業代を支給した」と会社側が主張した事例においては、以下のように判断されました。
「こういった長時間の時間外労働を義務付けるのは、使用者の業務運営に配慮しつつも労働者の生活と仕事を調和させようとする労基法36条の規定を無意味なものとする」
「月45時間以上の時間外労働の長期継続が健康を害する恐れがある(中略)ため、月95時間にのぼる時間外労働義務を生じさせる合意は、公序良俗に反する恐れがある」とし、36(サブロク)協定の1か月あたりの上限である「45時間」が限度であるとして有効とした裁判例があります(ザ・ウィンザー・ホテルズインターナショナル事件/札幌高裁 平成24年10月19日判決)。

すなわち、会社側の一方的な考えで、長すぎる時間の残業代をあらかじめ組み込むのは認められない可能性が大きいということです。

インセンティブ(歩合給)を残業代相当とするのに合意したら?

営業の成績を基準として歩合的に報奨を加算する、「歩合給」を残業代とみなして支払う仕組みも問題です。

難しい例ですが、月の所定労働時間が160時間の会社で月給32万円(時給2000円、時間外の時給2500円)の従業員がいるとします。

ここで、4万円の歩合給を得たものの、20時間残業したという場合を考えてみます。
歩合給の4万円は、16時間の残業代に相当します(4万円÷2500円=16時間)。
そのため、20時間残業した従業員は4時間分の損をしており、「4時間×2500円=1万円」を請求可能なように思えるでしょう。

インセンティブも残業代の基礎のうち

ですが、残業代計算の基礎に含まれない賃金としては、労基法などの法律で下記であると明確に規定されています(労基法37条2項他)。

  • 家族手当
  • 通勤手当
  • 別居手当
  • 子女教育手当
  • 住宅手当
  • 臨時に支払われた賃金
  • 1カ月を超える期間ごとに支払われる賃金

したがって、これに当たらない歩合給は毎月の給料の一部であるというふうにも考えられます。

つまり、残業代とインセンティブは相殺しなくても良いのです。両者を完全に別物として、基本給32万+インセンティブ4万=36万円を残業代計算の基礎とする、という流れです。
この場合、時給が2250円(36万円÷160時間=2250円)となります。
時間外の単価である2812円50銭(時給2250円×時間外手当て1.25)の20時間分である5万6250円が、インセンティブにプラスして残業代として支払われる金額になります。

では、これを表にまとめてみましょう。
時間単価は「基本給÷所定労働時間」で計算します。
また、時間外手当は「時間単価×1.25」です。

●Xさんの労働条件

所定労働時間 基本給 時間単価 時間外手当て
160時間 320,000円 2,000円 2,500円

●Xさんがとある月に受け取った給料

基本給 歩合 残業時間 残業代 合計
320,000円 40,000円 20時間 0円 360,000円

●インセンティブも残業代の基礎に含めた残業代

基本給 歩合 基本給+歩合 時間単価 時間外手当て
320,000円 40,000円 360,000円 2,250円 2812.5円

●労働基準法に従った場合、Xさんが受け取るべき額

基本給 歩合 時間外手当て 合計
320,000円 40,000円 56,250円 416,250円

労働条件問題で困ったら弁護士に相談を

残業代の計算については、これまでのさまざまな事例について会社側も勉強したうえで賃金体系の方針を出しています。
しかしそれがゆえに、従業員側としては自分の給料や手当などの計算について複雑に感じてしまうこともあるでしょう。
もし「自分の労働条件は本当にこれが正しいのか」という疑問が生じて納得いかないのであれば法律の専門家である弁護士へ相談するのも選択肢になります。
しかし、やはり弁護士費用の負担が心に引っ掛かる方も多いでしょう。
そのような方におすすめなのが、ベンナビ弁護士保険です。
弁護士保険とは、個人的なトラブルや事業活動で発生した法的トラブルに対して、弁護士に相談した際にかかってくる費用を補償する保険サービスです。

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気になる方はぜひ、ベンナビ弁護士保険をチェックしてみてください。

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