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美容師のカット練習の時間が残業になる場合とは?

更新日:2024年03月29日
美容師のカット練習の時間が残業になる場合とは?のアイキャッチ

 美容師の間で、よくこのような嘆きがありません?


「今日も11時間働いているのに、残業代無しだよ。」
「残業代なんて出ないのに、今日も2時間残業してクタクタ。」
「カット練習していたら23時になっちゃった。いったい1日、何時間働いているんだか。」

以上のように、美容師という職業は、サロンの閉店後に、技術を磨くためのカット練習等をするため、労働時間が長いことが恒常的になっています。さらに、長時間労働にも関わらず残業代が出ないことが業界では当然です。

しかし、営業後のカット練習は、場合によって、残業代が出ることがあることを知っていますか?
 そこで今回は、美容師のカット練習の残業について説明をしていきます。

カット練習と労働時間

営業後のカット練習で残業代が出るかどうかは、労働時間に該当するか否かで判断されます。
 労働時間は、労働基準法で明確な定義がないため、判例等から解釈をしていきます。
 この判例によれば、労働時間は「労働者が実際に労働に従事している時間だけでなく、労働者の行為が何らかの形で使用者(会社)の指揮命令下に置かれているものと評価される時間」と判決が下されています。

この判決の中で、特に「使用者(会社)の指揮命令下に置かれている時間」であるかどうかが労働時間に該当する重要なポイントになります。
つまり、手持ち時間(定時外の清掃時間、昼休み中に電話番をする時間等)も、会社に命令されたものであれば、労働時間に該当します。

それでは、以上の定義を基に、どのようなカット練習が、労働時間に該当するのかを見ていきましょう。

2種類のカット練習

カット練習には大きく分けると2種類あります。これらによって、労働時間に当たるかどうかの判断が出来ます。

必要最低限の技術を磨くカット練習

まず、店舗で最低限、通用するレベルの技術を磨くカット練習は、業務するうえで、必要不可欠なことです。そのため、明示的な指示がなくても、黙示的な命令があったものと見なされます。

よって、「会社の指揮命令下に置かれている時間」といえるため、労働時間に該当します。営業時間後のカット練習であれば、残業代が発生するでしょう。

より高い技術を磨くカット練習

美容師は非常に競争が激しい業界のため、最小限の技術力では生き残っていくことが難しいという事情があります。
そこで、より高い技術を身に付けるために、カット練習に励む美容師が多いのです。とはいえ、この場合のカット練習は、美容師が自発的にやっていることなので「会社の指揮命令下に置かれている時間」とは言い難いです。
よって、労働時間に該当しない可能性が高いです。

 しかし、サロン側から、「さらに技術を磨きなさい」という指示があり、カット練習をしているのであれば、それは「会社の指揮命令下に置かれている時間」になるので、労働時間に当たる可能性があります。

残業代を支給されない背景

 以上のことから、特に美容師になったばかりのアシスタントは、基礎のカット練習をしているので本来は残業代が支払われるべきです。

では、なぜ多くの美容師が、残業代が支払われないサービス残業をさせられているのかというと、以下の3つが理由としてあります。

➀営業時間外のため

 美容師業界は「営業中=労働時間」という認識があり、営業時間外は労働時間に含まないという風習があります。
 そのため、営業後は個人の自由時間と見なされます。後片付けの掃除やカット練習等で残業をしたとしても、労働時間の扱いとはならず、残業代が出ないケースが多いのです。

②一定の技術を身に付けるまでは、仕事にならないため

 美容学校からサロンに就職して、晴れて美容師として働き始めたとしても、お客様の相手が出来る程のカット技術がないことがほとんどです。

 しかし、一人前とは言い難い美容師に対し、お店側は給料を支払います。これは、初めのうちは売り上げを上げられませんが、スキルアップをして、お客様のカットを出来る技術が身に付けば、大きな売り上げを作ってくれます。その期待を込めた将来の投資として、給料が支払われています。

 そのため、まだ売り上げを作れない美容師に対して、基本給に加えて残業代も支払うことは厳しいという、サロン側の都合があります。

③経営を圧迫するため

 例えば、月給20万円で、労働日数は24日、一日の労働時間が8時間の勤務形態で働いている美容師がいるとしましょう。
この美容師が、毎日2時間の残業をすると、月の残業時間は48時間になります。勤務形態から、1時間あたりの賃金を割り出すと、1,041円になるため、月の残業代は49,968円です。
 スタッフが1人ならよいのですが、多くのサロンは従業員を数名抱えているところが多いので、支払う残業代は多額になってきます。

人件費がかかりがちな美容師業界において、残業代を支払うことは、サロン経営の悪化に直結するおそれがあります。
 しかし、現状としては、実際に退職したスタッフから、2年分の未払い残業代である550万円を請求されたケースもあるほど、残業代は、かさみます。
 
 以上のように、サロン側に様々な事情があることから、美容師は残業代を支払われないという背景があります。

徐々に増えている高待遇サロン

美容師

一方、最近では、営業後のカット残業をさせない、以下のような条件のサロンも増えています。

・週休2日制
・1日8時間勤務
・カット練習は、営業中の空いた時間に行う
・残業をした場合は、しっかり残業代を支給する

このような高待遇にすることで、パフォーマンスの低下を招く可能性がある、長時間労働を防ぐという狙いが、サロン側にはあります。

 しかし、待遇がよいサロンは少なく、従業員にサービス残業をさせているサロンが多いのが現状です。最低限の技術を磨くためのカット残業をしているのであれば、残業代の請求を視野に入れておきましょう。

サービス残業を強要しているケース

とはいえ、サロンによっては、残業代を支払わないで済むように、労働基準法で規定されていることを利用して、サービス残業を強要しているところもあります。
これは、大きく分けて3つあります。

➀残業代が基本給や手当に含まれる

 実際の労働時間に関わらず、あらかじめ決められた時間分の残業代を、基本給や手当に含めて、サービス残業をさせているサロンは少なくありません。
 しかし、この場合、あらかじめ決めた時間を超えるのであれば、追加で残業代を支払う必要があります。

②個人事業主である

 美容師の中には、自分で顧客を開拓し、美容室の一部を借りる、いわゆる「面貸し(面借り)」という契約形態で働いている人もいます。

この形態の美容師は、純粋な個人事業主であり、独立した個人として、時間に拘束されたり、指示、命令されたりすることはありません。そして、サロンとの関係は「委任契約」、もしくは「賃貸契約」となります。何時間働いたとしても、雇われていないため、残業代は発生しません。

 しかし、こういった美容師がいることを悪用して、「美容師は個人事業主だから。」という言い分で、サービス残業をさせているサロンもあります。

③管理職である

 店舗をいくつも運営しているサロン業界の中には、美容室の店長に対しては「管理職だから」という理由で、サービス残業をさせている会社も少なくありません。
 しかし、店長が管理職として、残業代が不要であるかどうかは、場合によって変わります。

→管理職については、こちらで詳しく説明をしています。

少なくとも、会社の経営方針に関わっていないようであれば、残業代が支給される権利があります。

美容師が残業代請求をする方法

 以上のことから、美容師でも、残業代が出る可能性があることが、お分かりになられたかと思います。
そこで、未払い残業代の請求方法について説明をしていきます。

労働時間かどうかの確認をする

 まず、営業時間外の掃除やカット練習、新人研修等について、労働時間に該当するかどうかを、1つ1つ検討してみてください。
 既に述べている通り、会社からの指揮命令下であれば、労働時間に当たる可能性があります。これは黙示の命令でも構いません。

 併せて、営業時間中に、休憩が1時間以上とれているかどうかのチェックもしましょう。お客様の対応に追われ、実際には休憩が取れていない場合、労働時間から休憩時間を差し引く必要はありません。

残業代請求をする手順

労働時間かどうかのチェックが出来、未払いの残業代があるようであれば、こちらの記事「会社と荒波を立てずに残業代を請求する方法」を読んでみて下さい。残業代請求に向けて、するべきことがお分かりいただけるでしょう。

残業代請求をした、美容師Aさんの話

 美容室で働くAさんは、勤務時間が10~20時で週休1日です。休憩は交代制で、1時間を2回とるという勤務条件で働いています。
 
お店の営業時間は10~20時のため、最後のお客様が帰る時間が、20時を過ぎることが多いです。さらに、閉店後の清掃や、レジ内のお金の計算等の事務作業もあることから、退勤時刻は22時を過ぎることも少なくありませんでした。
 また、お店では1ヶ月に一度、休日を利用して、勉強会も行われていました。

以上のように、Aさんは勤務時間外も働いているのにも関わらず、今まで一度も残業代を支払われることはなかったのです。

そんな中、同じようにサービス残業を強いられていた同業種の友人が、「未払いの残業代を請求して、回収することが出来た」という話を聞いたので、Aさんも残業代請求をすることにしました。

 Aさんが働く美容室では、タイムカードで勤怠時間を記録していないため、業務日誌を証拠として、2年分の残業時間を計算してみました。すると、Aさんの残業時間は、2年間で1200時間にも上ったのです。そのうち、深夜労働が30時間、勉強会の休日労働が96時間で、計算したところ、残業代は150万円になりました。

 訴訟を提起して数か月後、美容室側は、勉強会は自主的な参加であり、業務ではないとしましたが、それ以外の残業に関しては認め、110万の残業代を支払うことで和解しました。 

残業代の請求をしたことでサロン側との関係がこじれることを予想して、Aさんは当初、退職を覚悟していました。しかし請求後も、Aさんはサロンとの関係は良好であり、現在でも同じ職場で仕事を続けています。
このサロンでは、早番と遅番を採り入れ、2交代制のシフトを組み、労働時間の見直しが行われたとのことです。

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残業代に関する困りごとは弁護士へ相談を

カット練習を労働時間扱いとされず、サービス残業をしている美容師は少なくありません。「残業代が出ないことは、美容師業界では、当たり前のことなんだ」と諦めている人もいるでしょう。

しかし、無理をして長時間働くことは、美容師としてのパフォーマンスの低下につながります。

技術を磨くためのカット練習をすることは大切ですが、過度なサービス残業になっているのであれば、未払いの残業代を請求してみるのも一手です。

ただ、残業代請求といってもハードルが高く不安なもの。そこで頼りになるのが「弁護士」の存在です。

法律のプロである弁護士なら、個々の状況に合わせて相談に乗ってくれるだけでなく、労働上で起きやすいトラブルを未然に防いでくれます。

労働トラブルに詳しい弁護士に相談し、自分の身を守りましょう。

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