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【2019年4月~】なぜ管理職の労働時間の把握が義務化されたのか?

更新日:2021年09月29日
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まず以下の表をご覧ください。

【役職別に見た1ヶ月の総労働時間の長さ分布】

80~160時間 161~180時間 181~200時間 201~220時間 221~240時間 241~280時間 281時間 平均時間
一般社員 11.8% 25.0% 23.1% 15.7% 9.1% 8.9% 6.4% 203.5時間
係長・主任 10.3% 22.1% 23.0% 16.9% 9.8% 10.9% 6.9% 206.5時間
課長クラス 7.3% 17.5% 20.8% 21.3% 13.0% 12.0% 8.0% 213.6時間
部長クラス 10.8% 23.2% 22.7% 16.9% 9.7% 9.8% 6.8 216.1時間

引用元:https://www.jil.go.jp
/institute/zassi/backnumber/2009/11/pdf/073-087.pdf

 上記でお分かりの通り、課長や部長等、いわゆる管理職と言われる人の労働時間は長い傾向にあります。これは、管理職は仕事の性質上、労働基準法の労働時間の規制が適用されず、無制限に労働をさせられていることが大きな一因になっています。

ただ、そんな現状に一石を投じる出来事が起こりました。そう、管理職の労働時間の把握義務化です。これにより、企業は管理職の扱いを変えることが避けられません。

管理職の労働時間の把握義務化

 労働基準法第109条により、企業は、出勤簿やタイムカード等で労働者の労働時間の記録に関する書類を3年間保存することが義務づけられています。但し、労働時間に裁量のある管理職は、労働時間を把握する必要はありません。

 そのため、多くの会社では、管理職は労働時間の把握がされておらず長時間労働を強いられています。
 しかし、2019年4月に施行された働き方改革関連法で、管理職の労働時間の把握も義務化されたのです。

管理職の労働時間の把握が義務化された背景

 なぜ管理職の労働時間の把握が義務化されたのでしょうか。それは、労働安全衛生法で労働時間の把握義務が新設されたためです。
 働き方改革施行前の2019年3月までは、1ヶ月100時間を超える残業をした労働者からの申出があった場合に限り、企業はその者に医師の面接指導を実施させる義務が課されていました。(労働安全衛生法第66条の8、同規則52条の2)。

しかし、2019年4月にスタートした働き方改革で、医師の面接指導を実施する1ヶ月の残業時間が80時間に改正された上に、「医師の面接指導を実施するためには、労働者の労働時間状況を把握しなければならない(労働安全衛生法第66条の3)」という条文が新設されたのです。

そのため、企業が医師の面接指導の実施義務を果たすには、誰が1ヶ月80時間を超える残業をしているのかを把握しなければならなくなったのです。

これが、管理職の労働時間の把握が義務化された背景です。

以前から厚生労働省が管理職の労働時間の把握を求めていた

 とはいえ、これまでも厚生労働省のガイドラインによって、企業は労働者の労働時間の把握を求められていました。しかし、それは深夜割増賃金を適性に支払うことを目的としていたため、強制力はなかったのです。

改正によって期待されること

 管理職の労働時間に把握が義務化されると以下のような効果が期待されています。

健康障害等のリスク軽減

 長時間労働は、脳卒中等の健康障害の引き金になることが危惧されています。そのため、労働時間の把握がされていない管理職は、健康障害のリスクを背負いながら働くことを余儀なくされていました。ですが、管理職の労働時間の把握が義務化されることにより、長時間労働の防止に繋がり、健康障害等のリスクが軽減される効果が期待されています。

深夜割増賃金未払いの防止

 管理職は労働基準法の労働時間の規制が適用されないものの、深夜割増賃金の支払いは適用されます。
 労働時間の管理がされていなければ、深夜に労働をしていたかどうかの把握が難しく、深夜割増賃金を支払っていない企業は少なくありませんでした。

 しかし、管理職の労働時間の把握がされることにより、深夜割増賃金の未払いが減少することが期待されています。

有給休暇の取得

 労働時間の把握がされていないと、労働日と休日の境が曖昧になる傾向がありました。そのため、有給休暇を取得した日に労働するケースも少なくありませんでした。
しかし、労働時間の把握をすることで、曖昧になる労働日と休日の境が明確化され、有給休暇を取得した日に、本来の休日を得られる効果が期待されます。

労働時間把握の義務化に違反した場合の罰則

 もし会社が、管理職の労働時間の把握を怠った場合、罰則はあるのでしょうか。
 罰則は設けられていません。とはいえ、管理職の労働時間を把握していないと、深夜労働の割増賃金の不払いや、年次有給休暇の不取得等が起きかねません。
 その結果、企業は労働者から不信感を抱かれる可能性が考えられます。

終わりに

 労働時間の管理が義務化は、健康障害のリスク軽減等のメリットが多く、管理職にとっては朗報です。
 しかし、その義務化に違反した場合の罰則は設けられていないため、以前と変わらず管理職に長時間労働を強いる企業もあるかもしれません。中には、残業代の未払いから免れる企業もあるでしょう。

 その場合は、こちらの記事「会社と荒波を立てずに残業代を請求する方法」をお読みになり、未払いの残業代請求を検討した方がよいでしょう。

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残業代請求弁護士ガイド 編集部

残業代請求に関する記事を専門家と連携しながら執筆中 ぜひ残業代請求の参考にしてみてください。 悩んでいる方は一度弁護士に直接相談することをおすすめします。 今後も残業代請求に関する情報を発信して参ります。

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