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保育園の保育士に蔓延るサービス残業:労働時間の定義から違法性を暴く

更新日:2022年01月27日
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まず、保育士と幼稚園教諭を対象に行った、残業に関する以下のアンケート結果をご覧ください。

【アンケート実施概要】
実施期間:2016年12月23日〜2017年1月16日
実施対象:保育士(84%)、幼稚園教諭(13%)、その他保育・教育関連(3%)
回答者数:204人
平均年齢:35歳
男女割合:女性94% 男性6%

1日あたりの残業だ時間の平均はどれくらいですか?保育士アンケート

引用元:https://hoiku-shigoto.com/report/trouble-at-work/overtime/#i-2

 これは、保育士・幼稚園教諭の求人を掲載している転職サイト「保育のお仕事」が行ったアンケート調査です。
 実施対象に「保育園教諭」や「その他保育・教育関連」が含まれているものの、アンケート回答者の84%が保育士です。保育士の残業時間を把握するのに大いに参考になる調査結果でしょう。

 1日あたりの平均残業時間が、1~2時間以内が34.8%、それ以上の残業をする人が33.3%いることから、例えば月20日出勤とすると、月の残業時間が20時間以上の人が約3人に2人いる計算になります。
また、月80時間以上の残業をしている人は13.7%と、約10人に1人は過労死ラインを超える残業をしていることが、調査結果からうかがえます。

 なぜ保育士はここまで残業が多いのでしょうか。本記事では、その原因にスポットを当てていきたいと思います。

保育士の残業が多い原因

 保育士の残業が多い原因には、保育士業務の特性が関係しています。

1日8時間では終わらない仕事量

 保育士の仕事は、1日8時間では終わらないケースが多いです。
というのも、子どもがいる時間は子どもの面倒を見なければならなく、自身がやるべき業務に手を着けることが出来ないのです。

にも関わらず、行事が近づけば衣装作りをしなければならなかったり、季節に合わせて室内の飾りを作ったり等、業務は山積みです。
それに加え子ども相手の仕事は、熱を出したり怪我をしたりした子どもの面倒等、イレギュラー対応が発生しやすく、業務が滞るケースが少なくありません。

そのため、1日8時間以内に業務を終わらせることが難しいのです。
 結果、子どもたちが帰る夕方以降に、ようやく業務を進めることが出来ます。

深刻な人手不足

 保育サービス業界は待機児童が問題になっています。その理由の1つに深刻な保育士不足が挙げられます。低賃金や過酷な労働環境が原因で辞めてしまう保育士が多いのです。
 この人手不足により1人あたりの仕事量が増え、保育士の残業が助長されています。

「残業=子どもへの愛」だと思っている

 保育士は子どもたちと関わる仕事のため、我が子のように可愛く見えてしまうことがあります。我が子のように接すると「子どもたちのためなら残業は厭(いと)わない」というスタンスの保育士もいます。
 「残業=子どもへの愛」と考え、残業をしてしまう保育士が少なくないのです。

不条理な暗黙の了解

 保育園によっては、先輩保育士より早く出勤したり、遅く帰らなければいけなかったり等、不条理な暗黙の了解がまかり通っている職場もあります。
 このことが原因となり、特に新人の保育士等は不必要な残業を強いられているケースは少なくありません。

厚生労働省が発表した平均残業時間

 さて、厚生労働省が行った賃金構造統計調査(2014年)では、保育士の平均残業時間は、『1ヶ月あたり4時間』(https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00450091&tstat=000001011429&cycle=0&tclass1=000001065622&tclass2=000001065627&tclass3=000001065629)という結果が出ています。
冒頭でお伝えしたアンケート調査と比較すると、大きく相違があるように感じます。

これは、賃金構造統計調査が実際の残業時間を基に調査された結果ではないためです。保育士に支払われた残業代をベースに計算された平均残業時間であるため、実際の残業時間とは異なります。

 「実際に支払われた残業代を元に計算された平均残業時間」と「実際の平均残業時間」の間の相違から見えてくることは、「保育士に蔓延るサービス残業の実態」ではないでしょうか。

サービス残業が蔓延している理由

 ではなぜ、保育士にはサービス残業が蔓延しているのでしょう。それには、以下の4つの理由が考えられます。

【理由①】子どもがいない時間=労働時間ではない

 保育サービス業界には「子どもを預かる時間=保育士の労働時間」という特有の慣習があります。そのため、子どもたちが帰った夕方以降の業務は「子どもがいない=労働時間ではない」と見なされ、サービス残業の温床になっているのです。

【理由②】持ち帰り残業

 また、終わらなかった業務を自宅に持ち帰って行う「持ち帰り残業」もサービス残業に挙げられます。
 自宅に帰って行う業務に関しては、保育士の自由意思で行っているものと見なされ、労働時間にカウントされない傾向にあります。

【理由③】休憩時間に休憩が出来ない

 就業規則上は1時間の休憩時間が設けられているにも関わらず、休憩が出来ない保育士は多いです。休憩時間中に子どもたちの連絡帳を書いたり、行事の打合せだったり等に時間を割かなければなりません。到底、休憩時間とは言えないのが現状です。

【理由④】タイムカードが存在しない

 一般の企業であれば、タイムカードやタッチ式のカードを用いて勤務時間の管理を行います。対して保育園では、出勤をしたら手書きの出勤簿に印鑑を押す、という方法で勤怠管理しているケースが多いです。
 この管理方法では、厳密な勤務時間が把握されていないため、労働時間を容易に誤魔化せてしまうのです。

 以上、4つの理由から保育士のサービス残業が多いことが考えられます。
ここで問題なのが、それら4つの理由は保育サービス業界特有の労働時間の考え方になっているということです。

しかし、法律では労働時間の定義があります。そのため、保育サービス業界の独自の考えで労働時間の定義を決めて、保育士にサービス残業をさせている場合は、労働基準法違反に該当する可能性があります。

労働時間の定義とは

 では、労働時間は労働基準法でどのように定義されているのでしょうか。
労働基準法32条において、「労働者が使用者(保育園)の指揮命令下に置かれている時間」を労働時間と定める、といった内容が記述されています。

これを保育サービス業界に当てはめると、「➀保育園が行うように」「②保育園から命令された場合や保育園でせざるを得ない場合」の2つの条件が揃った場合に、労働時間と見なす、ということを示しています。
ちなみに、➀については必ずしも園内である必要はなく、保育園から場所の指定をされていれば条件を満たします。

→さらに労働時間の定義について知りたい方は、こちらで詳しく説明をしています。

保育士と残業

 前述の①②を基に、保育士の場合はどういった場合に残業に当たる可能性があるのかを見ていきましょう。

定時内で終わることが出来ない業務量による残業

 定時内で終わることが出来ない業務量による残業は、「①保育園が行うように」と「②
園内でせざるを得ない」に該当する可能性が考えられます。
 既述したように保育士は、子どもたちの面倒を見る日中は事務作業等が出来ません。そのため、子どもたちがいなくなる夕方以降に業務をせざるを得ません。その際、定時を超えて業務を行うようであれば、残業に該当する可能性が考えられます。

持ち帰り残業

 園内で終わらなかった仕事を自宅で行う持ち帰り残業は、「②園内でせざるを得ない」に該当する可能性が考えられます。というのも、仕事をせざるを得ない場合は、場所を問わず労働時間に当たる可能性があるためです。

休憩時間

 また、就業規則上は休憩時間があるが、その実情は休憩時間ではないという場合は労働時間に該当するかもしれません。

 こちらの記事「労働時間の定義を知って違法残業を見抜こう」をお読みになって、休憩時間が労働時間に該当するようであれば違法に残業をさせられている可能性があります。

 もし、上記で挙げたものに該当するようであれば、サービス残業をさせられている可能性が考えられます。

保育士の残業問題を解決する方法

 サービス残業をさせられている場合、保育士はどのような対策をすればよいのでしょうか。主に以下の対策が挙げられます。

【方法①】残業を減らす仕事内容にする

 保育士であれば子どもに喜んでもらおうと、よりよい制作物を作ろうと張り切るのが心情ではないでしょうか。しかし、時間には限りがあります。
例えば、衣装作りならミシンを使わなくて済む素材を使う等、作業時間を減らす工夫をすると残業時間を減らせるでしょう。

【方法②】公立保育園への転職

 残業を減らすための様々な努力をしてみても、改善出来ないという方は、身も心も疲れ果ててしまう前に、転職も視野に入れてみるのも一手でしょう。
 そこでまず挙げられるのが、比較的残業が少ない公立保育園への転職です。

 私立の保育園は経営のために園児を集める必要があり、他園と差をつけるためのプラスアルファの教育や保育システムを導入しているところが多く見受けられます。よって、様々な業務が保育士にのしかかる原因になります。

対して、公立保育園はそのプラスアルファが必要なく、保育サービスが限定されています。したがって、ゆとりを持って子どもたちと向き合うことが出来、自身の業務にもゆとりを持って取り組むことが可能です。

【方法③】臨時職員として働く

 パートや派遣等の臨時職員として働くことで残業を回避することも出来ます。
臨時職員は、しっかり時間管理をされているため残業を頼まれることが少ないです。特に、自身の子どもの育児があり長時間働くのが厳しい方等は、臨時職員として働くことも選択肢に入れてもよいかもしれません。

【方法④】残業代請求も視野に

 転職を希望していない方等は、まず上司に相談をし、残業の見直しを図ってもらいましょう。それでも動いてもらえない場合は、労働基準監督署に一度相談をしてみてください。

→労働基準監督署についてはこちらで詳しく説明をしています。

また、未払い分の残業代を請求するのも一手です。残業代の請求については、こちらの記事「会社と荒波を立てずに請求する方法」に詳しく説明をしています。未払いの残業代請求に向けてするべきことが理解出来るでしょう。

弁護士に相談

労働基準監督署の他に、弁護士に相談するというのも一手です。弁護士に依頼できることは多岐にわたり、残業問題はもとより未払い賃金の請求、不当解雇の阻止、パワハラやセクハラ対策等、様々あります。
さらに、弁護士に依頼すれば、示談や裁判の手続きを任せることが出来ます。

そして、残業代を裁判で回収しようとした場合、弁護士は裁判の時も代理人として本人の代わりに動いてくれます。そのため、支払いに応じない保育園や、金額面で歩み寄りが出来なくなってしまった場合には裁判を起こして、それらの回収をしてくれます。

まとめ

 保育士サービス業界特有の考えで、サービス残業をさせられている方は少なくありません。無理にでも長時間労働をしている保育士もいるでしょう。
 しかし、我慢をしたことで疲弊してしまい、辞職してしまう方がいるのも事実です。

 過度な残業があるのであれば、未払い分の残業代を請求することを検討した方がよいかもしれません。
 そのように保育園にテコ入れをすることにより、労働環境が改善されるかもしれません。

 また、あまりにも苦境があるならば、労働基準監督署に相談してみてください。疲弊してしまう前に現状を打破しましょう。

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