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みなし残業代制の「違法パターン」と「正しい計算方法」

更新日:2024年02月11日
みなし残業代制の「違法パターン」と「正しい計算方法」のアイキャッチ

みなさんが仕事に求めるものは、やりがいや充足感だけでなく、給与も含まれているでしょう。
 現在、給与には「フレックスタイム制」や「年俸制」等、様々な形態があります。その中で複雑で理解が難しい給与形態があります。

そう、「みなし残業代制」です。

 理解が難しいがゆえに、労働者にとって不利な運用をされたり、不当に残業代が支払われなかったり等も、みなし残業代制の側面にあります。
 本記事では、「みなし残業代制」の違法パターンや正しい計算方法等に触れさせていただきます。
「みなし残業代制」で働いている方は、ぜひ本記事でチェックしてみましょう。

みなし残業代制とは

 みなし残業代制とは、あらかじめ決められた時間数の残業代が含まれている労働契約を指します。例えば、月20時間分のみなし残業代が含まれているとします。その場合、実際の残業時間が20時間未満であっても、その時間分の残業代は支給されます。

2通りある「みなし残業代制」

 みなし残業代と一口にいっても、2通りあります。それぞれを見ていきましょう。

裁量労働制

裁量労働制とは、上司の目が直接には届かない会社の外で仕事をしている営業職のように労働時間で管理することが難しい労働者や、時間で賃金を決めることに馴染まない労働者(コンサルタント、研究者、システムエンジニア)に対し、「労使協定(労働者と会社の間で取り決めした内容を書面化したもの)を結んで、合意した時間数(所定労働時間)を1日の労働時間とみなす」制度です。

 裁量労働制が適用されるのは、具体的に以下の3職種が挙げられます。

①事業場外みなし労働制:直行直帰に営業職や在宅勤務(東京労働局にて詳しい説明がされています。
②専門業務型裁量労働制:コンサルタントや研究者等の専門職
③企画業務型裁量労働制:経営企画部スタッフ

→さらに裁量労働制について知りたい方はこちらの記事で詳しく説明をしています。

固定残業代制

固定残業代制は、裁量労働制とは異なり該当する職種がありません。基本給にあらかじめ固定の残業代が含まれている給与形態が、固定残業代制と呼ばれています。そのため。「固定残業代制」=「みなし残業代」と捉えられているケースは少なくありません。

みなし残業代制のメリット

 みなし残業代制を採用している企業割合は、2014年の厚生労働省の調査で『13.8%』(『http://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/jikan/syurou/14/gaiyou01.html』)と、2003年の『5.8%』(『http://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/04/s0428-7b1p.html#top』)
と比較しても上昇しています。

 なぜ、みなし残業代制を導入している企業は増えているのでしょうか。それには、みなし残業代制を採用すると、企業と労働者にメリットが生じることが理由に挙げられます。

【メリット①】人件費と生活費の安定

 会社を経営するためには、人権費の把握が必要です。その際、みなし残業代を導入することで、人件費の計算が容易になるのです。
 また、労働者にとっては収入に変動が少なくなるため、「今月は残業が少なかったから生活費が厳しくなりそう」等の不安を軽減するメリットがあります。

【メリット②】時間外労働の減少と労働生産性の向上

 みなし残業代制を導入すると長時間労働の抑制に繋がることが期待出来ます。
例えば「30時間分のみなし残業代」が支給されている労働者がいるとします。その労働者が、頑張って30時間の時間外労働をしても、10時間の時間外労働の抑えても残業代は変わりません。

 よって、「定時もしくは少しの残業で帰れるようテキパキ仕事をこなそう」と考え、仕事効率を上がる労働者は少なくないでしょう。結果、みなし残業代制は時間外労働の減少と労働生産性の向上に一約買われるのです。

みなし残業代制のデメリット

 メリットがある反面、みなし残業代制には誤解に似たデメリットも生じます。

【デメリット①】みなし残業時間分の強制労働

 みなし残業代制は、あくまで一定の残業代を固定支給する制度に過ぎず、みなし残業時間分は働かなければならないという制度ではありません。確かに、必要であれば残業をするのは当然です。しかし、残業をする必要がないようであれば、定時で帰ることが可能な制度なのです。

 しかし、「みなし残業時間分は働かなければならない」という誤解が生じてしまうケースがあります。

【デメリット②】みなし残業時間を超過した分の未払い

 みなし残業代を支払っているため、事前に決めたみなし時間分を超えた時間外労働をしても残業代は出ない、と誤解するケースが少なくありません。
みなし残業代制は、超過分に関して別途残業代を支払う制度なのです。

みなし残業代制の違法パターン

 このようなデメリットは、以下のような違法パターンに繋がっていることが官挙げられます。

【違法①】みなし残業時間を超えないと残業代が出ない

 あらかじめ決めた残業時間分を働いているかどうかに関わらず、みなし残業代は支払わなければなりません。
 したがって、「みなし残業の月20時間分の時間外労働をしていないため、今月は残業代なし」と判断されているようであれば、違法の可能性が考えられます。

【違法②】超過分の残業代が支払われない

 みなし残業時間を超過した分の残業代が支払われない場合、違法の可能性があります。

例えば、みなし残業代の条件に「残業30時間分(5万円)」と記載されていた場合、月30時間以上の残業をしたのであれば、会社はその超過分の残業代を労働者に支給する義務があります。
 しかし、「うちは、固定制だから残業代なし」等の理由で残業代に支払いから免れている場合は、違法の可能性は否定出来ません。

【違法③】みなし残業時間と金額が記載されていない

 会社がみなし残業代制を導入する場合は、就業規則や雇用契約書、労働条件通知書等の書類に、あらかじめ決めたみなし残業時間と金額の内訳を記載する必要があります。
例えば、以下のように内訳が明記されていなければなりません。

◇月額30万円(45時間分のみなし残業代8万円分を含む)」
◇基本給22万円 固定残業代(45時間分)8万円込み」

 しかし、みなし残業代に該当する時間と金額が明記されていない以下のような書き方の場合は、違法の可能性が考えられます。

①月給25万円(みなし残業手当30時間分含む)+交通費(上限2万円)
②月給23万5,000円(一律残業手当含む)

 ①は残業代がいくらなのかが不明で、②は残業時間と金額の両方とも明示されていません。

過去には、雇用契約書には給与について「月給25万円 残業含む」と記載されていたことから「みなし残業代に関する規定に有用性がない」として争われた判例(京都地裁2016年9月30日判決)もあります。この裁判ではみなし残業代制に違法性があることが認められました。

【違法④】周知されていない

就業規則等の書面にみなし残業代についての記載があり、それが管轄の労働基準監督署へ届出がなされていても、従業員への周知が行われていなければ、みなし残業代制は効力を発揮しません。
口頭での説明ではなく、就業規則等で以下のように規定を設け、従業員に周知する必要があります。
 

第〇条 〇〇手当てはみなし残業手当として、あらかじめ設定した時間(〇〇時間)に対して支給し、実際の労働時間がこれを超えた場合は、法令に基づき割増賃金を加算して支給する

上記のように周知されていない場合、無効なみなし残業代制で雇用契約を結ばれている可能性は否定出来ません。違法の疑いも考えられます。

【違法⑤】上限を超えたみなし残業時間

 みなし残業時間には上限があります。
 法定労働時間(1日8時間、1週40時間)を超える時間外労働をさせる場合に、労使間(労働者と会社の間)で結ぶ36協定には、残業時間は「1ヶ月45時間・1年360時間以内」という上限が設けられています。

→36協定についてはこちらで詳しく説明をしています。

 みなし残業代制を採用する際も、例外なくこの上限に従って残業時間数を設定しなければなりません。
多くの企業は、みなし残業時間を20時間あるいは30時間に設定していますが、上限を超えるような設定をしている場合、違法の可能性は否定出来ません。

【違法⑥】手当にみなし残業代が含まれている

 会社から「手当にみなし残業代が含まれている」と言われる場合も、違法の可能性があります。
 というのも、手当には「何時間分の残業代がいくら」含まれているかが不明のためです。
 給与明細等に「営業手当」や「役職手当」という名称でみなし残業代が含まれているようでしたら、不当の残業代が支払われていないかもしれません。

【違法⑦】不利益変更

 会社の都合で、みなし残業代がカット・減額されるケースがあります。
ですが、労働契約法10条では、給与が減給される等の不利益変更(労働者に不利益が被る変更)をしてはならない、といった内容の規定があります。
例えば、みなし残業代制が廃止され明らかに給与が減った場合は、不利益変更の可能性は否定出来ないため違法と捉えることが出来るでしょう。

時短勤務者に対する不利益変更

 時短勤務になったことによるみなし残業代の全額・大幅カットは不利益変更になる可能性があります。その場合、給与規定等に「時間短縮勤務者にはみなし残業代の適用をしない」と明記されていないようであれば違法の疑いが考えられるでしょう。

【違法⑧】法定休日に出勤

 みなし労働時間内で休日出勤をしたとしても違法のケースがあります。
 労働基準法では、毎週少なくとも1日の休日を与えなければならない、と定められています。この休日を法定休日と呼びます。
法定休日に働いた場合、たとえみなし残業時間以内だとしても別途残業代が支給されなければならないのです。

【違法⑨】不当なみなし残業代の繰越

 みなし残業代制は、あらかじめ決めた時間より残業時間が少ない場合は翌月に繰越をすることが出来ます。但し、下記の条件を満たしていなければなりません。

・給与規定に繰越をする旨を定めている
・労働条件通知書兼同意書により周知かつ同意をしている

 上記を満たしておらず、繰越が行われている場合は違法の可能性があります。

違法なみなし残業代計算

残業代計算機・付箋・ペン
 以上の違法パターンの他に、法外なみなし残業代の計算をされていることで違法になる可能性もあります。
ここからは、みなし残業代の計算方法に触れていきましょう。
 みなし残業代制の場合、残業代の計算方法で異なるのは、最後にみなし残業代分を差し引く点のみです。それを示したのが以下の計算式です。

残業代=1時間あたりの賃金(時給)×1.25(割増率)×みなし残業時間-みなし残業代
※「1時間あたりの賃金(時給)」と「割増率」の算出方法についてはこちらで詳しく説明をしています。

 ここで計算したものが、以下に項目に該当している場合は、違法・もしくは別途残業代が支給されなければなりません。

最低賃金を下回っている

 最低賃金とは、都道府県ごとに定められている賃金の最低基準額を指します。一例を挙げると、東京都の最低賃金は958円(2017年10月現在)です。もし、東京都内で働く方の中で、みなし残業代の「1時間あたりの賃金(時給)」が、958円を下回る場合は違法のみなし残業代になっているかもしれません。

休日出勤・深夜残業等の割増賃金の未適用

 残業には、時間帯や日にちの影響で、割増賃金が変更になることがあります。時間外労働の割増賃金は25%割増ですが、休日出勤では35%、深夜残業(22~5時の間の残業)では50%の割増賃金が発生します。
 休日出勤や深夜残業をすることが想定されず、その割増賃金が考慮されていない場合は違法の可能性が考えられるでしょう。

例えば、所定労働時間が9~18時で1時間の休憩を除く8時間勤務をするAさんがいるとします。Aさんの給与は「基本給220,000万円 みなし残業代(45時間分)70,400円」です。Aさんは月22日勤務のため、

220,000円÷(22日×8時間)=1,250円

1時間あたりの賃金に25%の割増をすると、割増賃金の時給は1562.5円になります。この賃金にみなし残業時間の45時間を掛けると

1,562円×45時間=70,321.5円

 100円未満は切り上げになるため、「みなし残業代(45時間分)70,400円」として表示されます。
 となると、Aさんのみなし残業代は時間外労働の割増賃金は計算されていますが、深夜残業や休日出勤の割増賃金までは考慮されていないことが分かります。

 よって、みなし残業時間以内であってもAさんが休日出勤及び深夜残業をした場合は、別途残業代が支払われなければなりません。

残業時間の平均時間から見る違法性

 みなし残業代が違反であるかどうかは、同業種の平均残業時間を1つの指標にして判断することも可能です。2017年に厚生労働省が調査する毎月勤労統計調査では、業界別の残業代の平均額は以下のように明らかになっています。
 

順位 業界 金額
1位 電気・ガス業 52,794円
2位 運輸業・郵便業 45,116円
3位 製造業 36,718円
4位 情報通信業 31,574円
5位 学術研究等 27,094円
6位 金融業・保険業 26,408円
7位 建設業 24,091円
8位 その他のサービス業 23,843円
9位 不動産・物品賃貸業 23,559円
10位 鉱業・砕石業等 22,376円
11位 飲食サービス業等 21,870円
12位 医療・福祉 19,152円
13位 卸売業・小売業 17,694円
14位 生活関連サービス等 15,795円
15位 複合サービス業 12,747円
16位 教育・学習支援業 8,172円
平均 調査産業計 26,007円

出典:厚生労働省ホームページ(http://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/monthly/29/2906r/2906r.html)

 この調査は会社の自己申告であるため、実際の残業時間はもっと多いと予想されます。そのため、みなし残業代が当調査の平均より少ないようであれば、自身の残業代が不当に抑えられている可能性もあるでしょう。

「みなし残業代制」と「フレックスタイム制」

 これまでみなし残業代についての説明をしてきましたが、ここで複雑になりがちなのが、「みなし残業代制」と「フレックスタイム制」を併用している労働者です。

 例えば、ある月、「フレックスタイム制」で規定されている所定労働時間に満たなかったとします。その場合は、「みなし残業代制」で毎月決められた額から差し引かれることはあるのでしょうか。
 これについては、基本給から控除されます。つまり、併用しているとはいえ「フレックスタイム制」で起きた不足分に関しては「みなし残業制」には影響しないのです。

→「フレックスタイム制」についてはこちらの記事で詳しく説明をしています。

「みなし残業代制」と「年俸制」

 では、「年俸制」で「みなし残業代制」を採り入れているケースはどうなるのでしょうか。
 年俸制では、「年俸には1ヶ月〇〇時間、〇万円の残業代を含める」というような契約内容を交わします。
そのため、年俸制でも事前に決められた残業時間を超えて残業をした場合は、追加の残業代が支払われなければなりません。

違法の可能性が考えられるようであれば未払いの残業代請求を

 本記事をお読みになって、違法の可能性が考えられるようであれば、未払いの残業代請求を考えた方がよいでしょう。
 その際は以下の証拠を揃えるとよいでしょう。

給与・雇用に関することが記載された書類

 就業規則等には、基本給がいくらで、みなし残業代の内容が明記されていなければなりません。よって、みなし残業代が有効であるかどうかを判断するための材料になります。就業規則の他には、労働契約書や労働条件通知書も判断材料になります。

給与明細

 給与明細に、みなし残業代に触れていないようであれば無効になる可能性があります。用意しておくと参考書類になるでしょう。みなし残業代が一律であれば一ヶ月で構いませんが、変動がある場合は対象月の明細も用意しておきましょう。

 上記を揃えた上で、残業代の請求についての、こちらの記事「会社と荒波を立てずに残業代を請求する方法」をお読みください。残業代請求に向けてするべきことや弁護士へ相談する際の注意点等が理解出来るでしょう。

残業代に関する困りごとは弁護士へ相談を

時間外労働の抑制や生産性の向上等のメリットを生み出す「みなし残業代制」。しかし、その一方で複雑な制度であることから、不当に残業代の支払いから免れる温床にもなっています。

違法の可能性が考えられるようであれば、残業代請求に向けて行動を起こす必要があるでしょう。

そこで頼りになるのが「弁護士」の存在です。

法律のプロである弁護士なら、個々の状況に合わせて相談に乗ってくれるだけでなく、労働上で起きやすいトラブルを未然に防いでくれます。

労働トラブルに詳しい弁護士に事前に相談しておくのがおすすめです。

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