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月60時間超えの残業をしているなら、1.5倍の割増し請求が出来るかも

更新日:2020年01月07日
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 2010年の労働基準法の改正によって、労働者が月60時間を超える時間外労働をした場合、会社は1時間当たりの賃金に1.5倍の割増をした残業代を支払わなければならないことになりました。
しかし、全ての会社がこれに当てはまるわけではありません。

 そこで、今回は1.5倍の割増賃金の残業代が出る場合について説明していきます。

1.5倍の割増しは残業抑制のため

 最近では、某有名広告代理店の行き過ぎた時間外勤務でも話題にもなった通り、残業が長時間に及んでいる企業が多いようです。労働者にとって長時間の労働は、プライベートの時間が減り、仕事ばかりの毎日になる傾向があります。

 それによって、多くのストレスを受け健康を害すことが考えられます。時には、過労死や過労で鬱状態になり自殺する事件等も起きています。

 現に、話題となった某有名広告代理店では女性社員が月に105時間を超える残業をしたことで過労自殺をしています。そして、厚生労働省からは「残業時間と脳血管疾患及び虚血性心疾患の関連性」についてこのような傾向データも出ています。

・月の残業時間が45時間を超えると、脳疾患等の発症の関連性が徐々に強まる
・脳疾患等の発症前1か月間に100時間、または発症前の6ヶ月間で月80時間を超える時間外労働をしていると脳疾患との関連性が強い。

 このことから、労働基準法の改正が行われることとなりました。
労働者の私的な生活の保護をする目的として、会社に対し残業代の割増賃金の負担を増やすことで長時間労働の抑制を図ったのです。

 その内容は、通常の時間外労働には1.25倍の割増賃金が課せられるところを、60時間を超える時間外労働に関しては1.5倍にすることです。この改正規定は2010年4月1日から施行されています。

月60時間を超えた残業代の計算

それでは、実際に月60時間を超えた場合の残業代計算をしてみましょう。

 例えば、1時間あたりの賃金1000円で月の残業代時間90時間である場合、そのうち60時間までは1.25倍の割増率ですが、残りの30時間に関しては1.5倍の割増率を加えた残業代を支払わなくてはいけません。

1,000(1時間あたりの賃金)×1.25(割増率)×60(時間)=75,000円
1,000(1時間あたりの賃金)×1.5(割増率)×30(時間)=45,000円

よって、75,000円+45,000円=120,000円の残業代が発生していることになります。また、この60時間を超えた分の割増率には、深夜残業の場合も適用されます。その場合、1.5倍(60時間超の割増率)に1.25倍(深夜労働の割増率)の割増率が加わるので1.75倍の割増賃金を支払う必要があります。

→詳しい残業代の計算方法、割増賃金の組み合わせはこちら

中小企業への適用の猶予

なお、この規定は大企業に限られたことで中小企業では、この適用は猶予(適用時期の先送り)されています。
労働基準法第138条にはこのような規定があります。

中小事業主(その資本金額又は出資の総額が3億円[小売業又はサービス業を主たる事業とする事業主については5,000万円、卸売業を主たる事業とする事業主については1億円]以下である事業主及びその常時使用する労働者の数が300人[小売業を主たる事業とする事業主については50人、卸売業又はサービス業を主たる事業とする事業主については100人]以下である事業主をいう。)の事業については当分の間、第37条第一項ただし書の規定は、適用しない。

この規定を分かりやすくすると以下の4つに区分されます。ちなみに、ここで言っている「常時使用する労働者数」とは、正社員だけではなく、パートやアルバイトの人も含んだ人数です。

① 小売業の会社

 小売業は、資本金または出資金額が5,000万円以下で、常時使用する労働者数が50人以下の場合に1.5倍以上の残業代支払いが猶予される中小企業に該当します。

② サービス業の会社

 サービス業は、資本金額または出資金額が5,000万円以下で、常時使用する労働者数が100人以下の場合に1.5倍以上の残業代支払いが猶予される中小企業に該当します。

③ 卸売業の会社

 卸売業は、資本金額または出資金額が1億円以下で、常時使用する労働者数が100人以下の場合に1.5倍以上の残業代支払いが猶予される中小企業に該当します。

④ 小売業・サービス業・卸売業以外の業種の会社

 小売業・サービス業・卸売業以外の業種の場合には、資本金額または出資金額が3億円以下で、常時使用する労働者数が300人以下であれば1.5倍以上の残業代支払いが猶予される中小企業に該当します。

中小企業は残業が多い

 ある企業が、中小企業に働いている人に1か月の残業時間について調査をしたのですがその結果が以下のようになりました。

<1ヶ月の平均残業時間は何時間ですか>
1ヶ月の平均残業時間は何時間ですか?
出典元:http://corp.en-japan.com/newsrelease/2017/3494.html

 月41時間を超えて残業する人が10%を超える結果が出ました。中小企業では猶予されていますが、1.5倍の割増賃金を支払わなければいけないボーダーラインである月60時間を超える企業が僅かでありますが2%いました。

<【業種別】1ヶ月の平均残業時間は何時間ですか?>

【業種別】1ヶ月の平均残業時間は何時間ですか?
出典元:http://corp.en-japan.com/newsrelease/2017/3494.html

 業種別で見るとだいぶ差があります。金融・コンサル関連の企業で働いている人に月40時間を超える残業をしている人はいませんでした。

 それに対し、広告・出版・マスコミ関連の企業で働いている人は40%もの人が月40時間を超える残業をしていました。これは膨大な情報量を、分刻みのスピードで取扱うという仕事の特異性から、時間を問わず働いている人が多いからだと思われます。

<【企業規模別】1ヶ月の平均残業時間は何時間ですか?>

【企業規模別】1ヶ月の平均残業時間は何時間ですか?
出典元:http://corp.en-japan.com/newsrelease/2017/3494.html

 会社の規模が大きくなればなるほど残業時間が多くなる傾向にあります。しかし、月60時間を超える残業をしている人は小規模になればなるほど多い傾向にあります。

<【業種別】残業が発生する主な理由は何ですか?>

【業種別】残業が発生する主な理由は何ですか?
出典元:http://corp.en-japan.com/newsrelease/2017/3494.html

 広告・出版・マスコミ関連は仕事量が多いうえに、納期を迫られる緊急性の高い仕事が多いことから、残業が多い傾向にあります。
そして、新卒の3年以内の離職率が高いとされているサービス業は、人員の確保に苦労していることから人員不足が原因の残業が多いようです。

2019年に適用の猶予が廃止される?

 このように中小企業で働く労働者は長時間の残業をしているのにも関わらず、月60時間以上の残業に対して1.5倍の割増賃金を支払うことが猶予されています。

 しかし、2016年2月、厚生労働省が労働政策審議会に意見を求めた「労働基準法の一部を改正する法律案要網」で「健康確保のために時間外労働に対する指導を強化する」といった今後の方向性が記載されています。

 これは今後、労働者の健康に対してさらに配慮することを意味していて、会社はより一層社員の労働時間について配慮しなければいけなくなります。その一環として2019年4月1日から、猶予されていた中小企業における月60時間超の時間外労働への割増賃金率の適用が廃止される方向で協議されています。

弁護士が残業代請求の準備の相談に乗ってくれる

 残業代の請求を考えている方は、1.5倍の割増賃金のことも含め、法律の専門家である弁護士に相談することをお勧めします。弁護士でしたら相談にのってくれるうえに、相談者に合った的確なアドバイスをしてくれます。

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まとめ

 月60時間を超える残業代についての決まりを理解してもらえたでしょうか。
昨今、残業代を巡る労働問題が非常に多くなっています。しかし「会社が言うならしょうがない」と、泣き寝入りしてしまうことがほとんどです。
そうならないためにも、これを読んで参考になって頂けたら幸いです。

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残業代請求弁護士ガイド 編集部

残業代請求に関する記事を専門家と連携しながら執筆中 ぜひ残業代請求の参考にしてみてください。 悩んでいる方は一度弁護士に直接相談することをおすすめします。 今後も残業代請求に関する情報を発信して参ります。

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