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残業の強制を拒否出来るケースとは?残業命令には要件がある

更新日:2022年03月30日
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  毎日のように長時間の残業を強制させられ、不満を感じている労働者は少なくないのではないでしょうか。
 実は、会社が労働者に残業を強制する場合、一定の要件を満たしていたければなりません。
 本記事では、会社が残業命令を出すための要件と、労働者がそれを拒否出来るケースについて深く堀り下げていきたいと思います。

会社が労働者に残業命令を出せる要件

 はじめに、会社が労働者に残業命令を出すための要件についてご説明させていただきます。その要件は次の2つです。

①労使間(労働者と会社の間)で36協定を締結している
②労働契約や就業規則に残業の規定が明記されている

 1つずつ説明していきます。

【要件①】労使間で36協定を締結している

 労使間で36協定を締結している場合、会社は労働者に残業命令を出すことが可能です。

 36協定とは、労働時間の延長や休日出勤を認める協定のことを指します。労働基準法36条で定められていることに由来して、36協定と呼ばれています。

 36協定は労使間で締結しているのみでは効力は発揮されません。有効にするには、労働基準監督署に届出しており、かつ36協定の内容について、会社が労働者に周知している必要があります。

【関連記事】36協定とは?わかりやすく解説

【要件②】労働契約や就業規則に残業の規定が明記されている

 次いで、労働契約書や就業規則に残業の規定が明記されていることが要件です。
 それは、労働基準法第15条で「労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない」と定められているためです。

 労働契約書や就業規則も、36協定と同様、労働基準監督署への届出と労働者への周知を行わないと効力は発揮されません。ただし、労働基準監督署への届出が必要なのは、従業員数が10名以上の場合に限ります。従業員数が10人未満の場合は、労働基準監督署に届出しなくても、労働契約書や就業規則は効力が発揮されます。

労働者が残業強制を拒否出来るケース

 以上の要件①②を満たしていたとしても、労働者が残業の強制を拒否出来るケースがあります。それは以下のケースが挙げられます。

【拒否①】36協定の残業上限時間を超えている

36協定では残業を認めつつも、その上限時間が定められています。そのため、36協定で定められている上限時間を超えて残業している場合は、拒否出来る可能性があります。
36協定では、具体的に以下の残業上限時間が定められています。

・1ヶ月間…45時間
・1年間…360時間

 上記の上限は、大企業では2019年4月から、中小企業では2020年4月から適用されています。違反した企業は6ヶ月以下の懲役、または30万円以下の罰金が科せられます。

【関連記事】みなし残業の上限は月45時間を「超えてよい?」「超えてはダメ?」

特別条項が設けられている場合

 しかし、36協定の残業上限時間を超えて労働させることが許されるケースがあります。それは、決算期で業務量が増える等、特別な場合です。
 そのような場合、特別条項が適用され、残業上限時間を超えた労働を強制することが可能です。
 特別要項が適用された場合、下記の①から④の全てを満たしていれば、会社は36協定の残業上限時間を超えた労働を労働者に命令することが出来ます。

①1ヶ月間で100時間未満の残業
②1ヶ月間で45時間の残業を超えることが出来るのは年間で6ヶ月まで
③1年間で720時間の残業(休日労働を含まない)
④2ヶ月から6ヶ月までの全ての平均残業時間が80時間以内(休日労働を含まない)

【拒否②】正当な理由がある

 労働者側に正当な理由がある場合、残業命令を拒否出来る権利が保証されています。 具体的に、以下の対象者が、正当な理由に該当する可能性があります。

対象者 内容 条文
妊産婦(妊娠中の女性あるいは産後1年を経過しない女性) 対象者が請求した場合、残業や休日労働をさせてはならない 労働基準法第66条2項
3歳未満の子の養育する者 対象者が請求した場合、所定労働時間(1日8時間、1週40時間)を超える労働をさせてはならない 育児介護休業法第16条の8
小学校就学前の子を養育する者 対象者が請求した場合、1ヶ月で24時間、1年で150時間を越える残業をさせてはならない 育児介護休業法第17条
家族を介護する者 対象者が請求した場合、1ヶ月で24時間、1年で150時間を越える残業をさせてはならない 育児介護休業法第18条

 法的に保証はされていませんが、体調が悪いことも正当な理由に該当する可能性があります。
それは、体調不良で残業拒否した労働者が会社に解雇された判例で、「残業命令に従えないやむを得ない事由があったと認められ、これに従う義務がなかった」という判決が下されたためです。(東京高等裁判所平成9年11月17日判決 事件番号平成6年(ネ)第4745号)

残業の強制が正当かどうかの確認方法

 会社から残業の強制をさせられている場合、それが正当かどうかを確認方法があります。次の3つを確認しましょう。

【確認①】残業に関する内容の記載があるかどうか

 まず、労働契約書や就業規則に残業に関する内容が記載されているかどうかを確認してください。それは、既出の通り、労働契約書や就業規則に残業に関する内容の記載があることが、残業命令の要件に挙げられるためです。
 労働契約書は、会社と直接取り交わすため、手元にあるでしょう。就業規則は、従業員への周知が義務付けられているため、会社に確認してください。人事や総務等の部署で確認出来ると考えられます。

労働契約書、就業規則に残業に関する内容が記載されていない場合は、違法な残業を強制させられている可能性があります。

【確認②】36協定の残業上限時間に触れているかどうか

 36協定の残業上限時間を超えている場合も、違法な残業の可能性が考えられます。ですので、36協定の残業上限時間を超えているかどうかをチェックしましょう。
 既述の通り、36協定の残業上限時間は、1ヶ月間で45時間、1年間で360時間です。それらを超えて残業を強制させられている場合は、不当に残業をさせられているかもしれません。

 残業時間は、会社の出退勤管理システムやタイムカードで確認することが可能でしょう。

【確認③】残業を拒否出来る正当な理由があるかどうか

 残業を拒否する正当な理由があるかどうかも確認してください。
 既述の通り、妊産婦や養育者、介護者は、残業を拒否する権利が法律で定められているためです。

不当な残業を拒否出来ない場合の対処法

 以上で紹介したように、法的に残業を拒否する権利は保証されています。しかし、実際は、上司からの残業命令の拒否に対して声を挙げられず、不当に残業を強制させられている方も多いでしょう。
 そのような方には、以下のような対処法が挙げられます。

【対処法①】労働基準監督署に相談する

 労働基準監督署とは、会社が労働基準法を遵守しているかどうかを監督する機関のことをいいます。労働基準法に違反している会社は労働基準監督署に是正される場合があります。
 ですので、労働基準監督署に会社の違法な残業強制について相談をすると、是正に向けて動いてくれる可能性があります。
 相談する際は、残業をしたことを立証する資料を持っていきましょう。

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【対処法②】残業代請求について弁護士に相談する

 残業をしているにも関わらず、残業代が支払われていない方も少なくないのではないでしょうか。
 労働者には残業をした時間分の賃金を請求する権利があります。ですので、会社に残業代の請求をするのも一手です。

 その際は、弁護士に相談することをオススメします。
弁護士は、残業代請求に必要な書類の準備や手続、会社との交渉を労働者の代わりに行います。
もし、会社との交渉が決裂したとしても、速やかに法的手続への移行をしてくれるので、安心して請求に臨むことが期待出来ます。

【弁護士への依頼に関する記事】
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まとめ

残業命令は法律で規律されています。人手が足りなくて残業したり、社員が体調を崩すほど業務がきつくなったりするのは、そもそもとして労働者に原因があるわけではなく、経営陣に問題があります。

日本では、残業は常識になっていて長く働くことが美徳とされる文化ですが、欧米諸国の考え方は真逆です。無駄な残業はなるべくせず、仕事と私生活のバランスをしっかり取っていける生活をする一助になれれば幸いです。

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