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未払い残業代請求の証拠集め:証拠がない場合の手段も紹介

更新日:2024年03月26日
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最近、サービス残業が問題になっており、そのことによって「残業代も出ないのに仕事ばっかりの生活で疲れた」「安い給料で毎日、朝から晩まで働いているのに残業代出なくてやってられない」といった理由で仕事を退職しようと考えている方もいるかと思います。

確かに、残業代も出ないのに残業をさせられる毎日は嫌ですよね。辞めようと思っている方はその前に、サービス残業で未払いになっている残業代を請求したくないですか?未払い分の残業代は、残業をした証拠さえ用意出来ていれば請求することが出来ます。

そこで今回は、未払いの残業代を請求するための証拠集めについて説明していきます。

残業代請求と証拠

 そもそも未払いの残業代を請求するためには、なぜ証拠が必要なのでしょうか。それは、訴える側に立証責任(確固たる証拠で物事を証明する責任)があるからです。
 未払いの残業代を請求する場合、立証責任は労働者側にあります。労働者は自らの手で残業をしている事実を立証しなければならないのです。

残業をした証拠になる資料

では残業をしている事実を立証するためには、どのような証拠を集めればよいのでしょうか。具体的に言うと、次の4種類の資料を集めることが理想です。

・労働条件が分かる資料
・残業時間を証明する資料
・残業内容が分かる資料
・支給額が分かる資料

 ひとつずつ見ていきましょう。

【資料①】労働条件が分かる資料

 労働条件が分かる資料を持っていると「未払い残業代が発生しているかどうか」「どのように残業代を計算するか」等の判断材料になります。まず、はじめに集めた方がよい証拠と言えます。
 また、会社は未払い残業代の支払いを免れるために、虚偽の主張をするケースがあります。その場合に労働条件が分かる資料を持っていると論破出来ます。

 労働条件を把握出来る資料は以下が挙げられます。

⑴雇用時に交付される書類

会社が労働者を雇用する際には、労働基準法施行規則第5条に定められた、
「労働する契約期間に関すること」「労働する場所や仕事内容に関すること」「労働する時間(始業・終業の時間)や、あらかじめ決められた1日の労働時間を超えての労働が出来るか否か、休憩時間、休日、休暇に関すること」等の情報が記載された書面を交付しなければなりません。

 それらの情報が記載されているのは、会社から一方的に交付される雇用通知書や労働条件通知書、労使間で締結する雇用契約書や労働契約書等が挙げられます。

⑵就業規則

就業規則とは、会社が労働者に定めた労働のルールのことを指します。
就業規則には、就業時間、休日、時間外労働の有無、割増賃金の計算方法など、未払い残業代を請求するためには必要な情報が多く含まれています。そのため、就業規則は有力な証拠になるのです。

【資料②】残業時間を証明する資料

 残業時間を証明する資料を持っていると、「実際、何時間の残業をしたのか」「何時まで会社に残っていたのか」等の立証が可能です。
 残業をしていた事実を証明する資料は次の2個が挙げられます。

⑴タイムカード・勤怠記録ツール

労働時間を管理するタイムカードや勤怠を記録するツールは労働時間を算出する証拠としては有効です。
しかし、定時にタイムカードを押させて残業させるサービス残業等もあることから、そもそも会社が労働者の労働時間を管理出来ていないケースも少なくありません。

そのため、タイムカードや勤怠を記録するツールだけでは証拠不十分になる可能性があります。

⑵残業アプリ

最近では、残業証拠レコーダー等、残業を記録するアプリも登場しています。GPSをONにして位置情報を記録することで、残業代の推計と証拠の確保することが出来ます。

【資料③】残業内容が分かる資料

退勤時間を証明出来たとしても会社から反論される可能性があります。「勝手に残ってたんでしょ?」「その時間まで喋っていただけで、本当は何もしてなかったんじゃないの?」等と言われてしまうかもしれません。
そうなった際に対処出来るよう、残業内容が分かる資料を持っておいた方がよいです。具体的には次のようなものが労働をしていた証拠になります。

⑴残業指示書・残業指示メール

 上司から残業をするように指示された事実が分かる残業指示書は証拠になり得るでしょう。残業をするように指示を受けたメールも同様に証拠になるでしょう。

⑵残業承認書

また、上司から残業をすることを許可された事実が分かる残業承認書も証拠になる可能性があります。

【資料④】支給額を証明する資料

 支給額を証明する証拠も必要です。実際に支払われている支給額が分かれば、未払いの残業代額を把握出来ます。
 支給額を証明するものは、給与明細と源泉徴収票があります。

証拠集めする際のポイント

 証拠集めをする際には次のポイントに留意しておきましょう。

【ポイント①】コピーや写真でOK

 収集する証拠は原本であることに越したことはありません。しかし、タイムカード等、原本を収集するのが難しいケースもあります。
 そのような場合は、コピーや写真でもOKです。

【ポイント②】2年の時効がある

残業代請求には2年の時効があります。2年の時効を過ぎてしまった期間の残業代は請求することが出来なくなってしまいます。
そのため、退職してから残業代請求を行おうとすると、請求出来ない期間が発生する可能性があります。このことは念頭に入れておいた方がよいでしょう。

【ポイント③】証拠が一部期間ない場合でもOK

 証拠が一部期間のみの場合でも、過去の判例で、それ以上の期間の残業代請求に成功した例があります。
 ですので、一部期間がない場合でも構わないので、証拠は必ず準備しましょう。

証拠がない場合

 本記事で挙げた「労働条件が分かる資料」「残業していた事実を証明する資料」「残業内容が分かる資料」「支給額が分かる資料」がない場合、未払いの残業代は請求出来ないのでしょうか。
 証拠がないことを理由に残業代請求を諦めるのは早計です。

実は、証拠がない方は、以下に挙げることをやってみましょう。

【証拠なし①】開示請求

 まずは会社に、証拠の開示請求(書類の提出を求めること)をする方法が挙げられます。
 会社は、労働者の名簿や賃金台帳等、労働者雇用に関する書類を3年間保存する義務がります。もちろん、タイムカード等の労働時間の管理に関する書類も保存していなければなりません。

 労働者は、それらの書類を開示請求することが出来るのです。

【証拠なし②】証拠保全

 開示請求の他に、証拠保全という方法もあります。
 証拠保全とは、証拠を確保するための手続のことをいいます。証拠保全手続は、裁判所が会社に書面で通知したり、裁判官や裁判所書記官が会社に出向したり等が行われます。
 裁判所が動くだけに、会社は労働者からの開示請求より強い権威を感じます。そのため、多くの会社は証拠保全に応じます。

【証拠なし③】会社に残業した事実を立証する証拠がない場合

 証拠が存在すれば開示請求や証拠保全手続で解決しますが、そもそも証拠になり得るものが会社にないという場合もあります。
 そのような場合でも諦めてはなりません。下記のものを参考に出来るだけ証拠を用意しましょう。

⑴業務日誌・日報

タイムカードや勤怠記録するツールで労働時間の管理をしていない場合、業務日誌・日報が残業をしていた事実を証明する資料になる可能性があります。
 業務日誌・日報は、いつ、どこで、何をしたか等、毎日の仕事の記録が具体的に残されているため、有力な証拠になるのです。

⑵メールの送信履歴

業務で使用しているメールの送信履歴も残業をしている証拠になります。メール送信時刻が、その時間まで労働していたことを証明出来る可能性があるためです。

⑶LINE(ライン)

 無料通話・メールアプリのLINE(ライン)も残業をしていた事実の証明になり得ます。例えば、家族に「残業が終わったので今から会社を出ます」といった内容のLINEを送っていれば、残業をしていた証拠になる可能性があります。

⑷ツイッター

 ツイッターでの呟きも証拠になるケースがあります。例えば「残業なう」や「仕事が終わらなくて上司が帰してくれない」と呟きは、その日時に残業をしている証拠になる可能性があります。

⑸メモ・エクセル

 残業した時間をメモやエクセルに記録した書類があれば証拠になる可能性があります。例えば、「出勤9:00、退勤21:30」といったように、出退勤時間が分かるようにメモをしていれば証拠になるかもしれません。
 加えて、何時から何時までどのような業務を遂行していたか、誰からどのような指示をされたか等、詳細が書かれているとより有力な証拠になります。

⑹日記・ブログ

 日記やブログ等も証拠になる可能性があります。残業時間が示されていると証拠になる可能性が高くなるでしょう。

⑺建物の入退館記録

 セキュリティ管理されたビルの中に、勤務する会社がある場合は入退館記録が証拠になる可能性があります。入退館記録には入退館した時刻が記録されているためです。

⑻交通系ICカード

 SUICAやPASMO等の交通系ICカードは残業時間の証明になります。JR等に依頼すれば、交通機関の利用履歴を確認することが可能です。

⑼会社内の時計

 オフィスの時計が映っている写真も、その時間に社内にいた証拠になり得ます。退社するタイミングに撮った時計の写真がベターです。
また、会社のパソコンの画面に表示されている時刻が映された写真があれば、それも証拠になるでしょう。

⑽タクシーの領収書

終電がなく、タクシーで帰宅した場合は会計時に領収書をもらっておけば、ほとんどのタクシー会社の領収書は乗車時間帯が記載されているので、これも有力な証拠になります。

⑾買い物レシート

 業務の一環で買い物した際のレシートがあれば、それも証拠になり得ます。レシートには、買い物時の時間が明示されているためです。

⑿パソコンのログ

パソコンを使う仕事をしている人はパソコンのログも有力な証拠になります。何時にパソコンを立ち上げ、何時まで稼働させていたかが分かるからです。
しかし、パソコンを切らずに帰宅してしまっている場合はずっと稼働していることになってしまい証拠としては弱いので、そこは注意が必要です。

⒀グーグルマップタイムライン

 グーグルマップタイムラインとは、自身の毎日の行動履歴を確認出来る「グーグルマップ」アプリ内の機能のことをいいます。
 グーグルマップタイムラインでは、移動距離や訪問時間、どのようなルートでいつ頃その場所まで訪れたか等の詳細な行動履歴が表示されます。
 そのため、残業をしていたことを証明する1 つの手段になるのです。

⒁周囲の証言

 「いつも〇時までは会社に残って仕事をしている」といった同僚の声や、「いつも〇時頃、商品を受け取りに来ています」といった取引先の声等、周囲の証言も残業証拠になる可能性があります。
 また、「いつも夜遅くに帰ってくる」といった家族の声も証言に残業証拠なる可能性があります。

証拠が全くない場合でも残業代請求に成功した裁判例

 以上の方法でも、証拠が全く集まらない場合は泣き寝入りするしかないのでしょうか。
 証拠が用意出来ない原因が会社にある場合は、労働時間を推計すれば、残業代請求が認められる可能性も否定出来ません。
 というのも過去に、労働者が残業を立証する証拠を用意出来ていないが、その原因が会社にあり、残業代請求が認められた以下のような裁判例があったためです。

スタジオツインク事件:東京地判平成23・10・25労判1041号69頁

この事案は、スタジオツインクという記録映画やテレビCMの企画などを業務としている会社で、そこで働いていた従業員たちが、退職後に残業代の支払いを請求したものです。使用者側に証拠があるのに全く出さない場合、公平の観点に照らし「合理的な推計方法」によって労働時間を総計しました。

この会社は、ちゃんとした明白な理由もないのに、従業員が行った残業についての証拠を廃棄し、また、まったく提出しようとしませんでした。つまり、会社側からは労働時間の正確な記録の提出が期待できない状態であるため、この時の従業員の労働時間の方法については、従業員たちが自らメモなどの記録を残しておいたものから労働時間の推定をしても、それがもっとも合理的であり公平であるとの解釈がなされたものでした。

 ですので、証拠が全くない場合でも、未払いの残業代を回収することを諦めてはなりません。

弁護士が準備の相談に乗ってくれる

残業代請求の証拠集めについて説明してきましたが、人それぞれ事情が異なるので、具体的な対策や準備も異なってきます。
そのため、準備をする際はまず法律の専門家である弁護士に相談することをお勧めします。弁護士ならその人にあった対策や準備について的確にアドバイスをしてくれます。証拠がない場合の、会社への開示請求や証拠保全の手続も代行してくれるでしょう。

残業代に関する困りごとは弁護士へ相談を

未払いの残業代請求では、残業を証明する証拠について明確な取り決めはありません。
残業を立証するのに有効と考えられるものがあれば、手元に保管しておきましょう。

もし、不当な扱いで残業代が未払いである際は、残業代請求を検討してみてください。

ただ、残業代請求といってもハードルが高く不安なもの。そこで頼りになるのが「弁護士」の存在です。

法律のプロである弁護士なら、個々の状況に合わせて相談に乗ってくれるだけでなく、労働上で起きやすいトラブルを未然に防いでくれます。

労働トラブルに詳しい弁護士に相談し、自分の身を守りましょう。

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