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【弁護士監修】労働者が労働基準監督署に相談出来る内容と相談事例

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弁護士 古閑 孝 アドニス法律事務所

更新日:2019年07月02日
労働者が労働基準監督署に相談出来る内容と相談事例のアイキャッチ

労働者が労働問題に直面した際の相談先になるのが労働基準監督署。しかし、そこでは相談出来る内容に制限があります。
 本記事では労働基準監督署に相談出来る内容と相談事例についてお伝えいたします。

労働基準監督署と労働基準法

 労働基準監督署は、労働基準法に則って助言や指導、是正等を行う組織です。労働基準法に違反している事実が判明すれば、強制捜査や逮捕等、司法警察官としての権限を行使するケースもあります。

 労働基準法では、ざっと挙げると次のような内容についての規定があります。

■賃金のルール(締め日や支払日、支払方法等に関する内容)
■雇用条件の明示
■1日・1週あたりの労働時間の上限
■始業、終業時間
36協定
■休日日数、休憩時間
■有給休暇
■法定時間外・深夜・休日労働の対する割増賃金
■最低賃金
■解雇予告のルール
■年齢による制限(18歳未満は22~5時労働を禁止する等)
■産前・産後の就労
■労災保険給付等に使用する平均賃金の計算方法
■労災申請で必要なもの
■安全衛生管理(健康診断・有害・危険な業務など)

 以上についての相談は、労働基準監督署が対応出来る範囲とされています。但し、行政機関である労働基準監督署は民事不介入(犯罪ではない個人間の争いには介入しないこと)のため、労働基準法で触れている内容であっても踏み込める範囲に限度があります。

労働基準監督署に相談出来る内容

 では、具体的にどのような内容なら労働基準監督署に相談が出来るのかを見ていきましょう。

労働に関する内容

 最も多い相談は労働に関する内容です。
 労働問題は多岐に渡るため以下のようにカテゴリーに分けました。以下の内容については相談が可能です。

◆雇用契約書等の書類に付随する問題
・2年の契約期間のはずが1年で契約満了と言われた
・勤務地が契約書に記載されている内容と異なる
・始業、終業時間が契約書に記載されている内容と違う
・実際の休日日数が契約時に交わされた日数より少ない
・内容にない転勤・配置転換
・実際に支給された給与額が採用時に提示された賃金と違う
・雇用条件が明確化されていない
・就業規則の提示を拒否される
・誓約書の内容に基づいた賃金の未払いや即時解雇をされた

◆労働時間について
・1ヶ月の残業が100時間を超える等の長時間労働
・残業時間が36協定で定められている「月45時間の制限」を超えている
・1日8時間の勤務をしているにも関わらず休憩がない
・休日出勤を強制される

◆有給休暇について
・有給休暇が支給されない
・有給休暇の取得日数が勤続期間に応じていない
・有給休暇の消化拒否

◆賃金等の未払い
・給与(給与、残業代、休日手当、深夜手当等)の未払い
・突然の会社倒産で未払いの賃金がある
・早出残業をしても残業代が支払われない
・退職金の未払い
・交通費の未払い
・支給される予定のボーナスや賞与の不払い
・残業代が正しく割増された賃金ではない
・サービス残業
名ばかり管理職による残業代未払い
みなし残業による不当なサービス残業
・内職(家内労働)のお金(工賃)の不払い
・突然の減給通告

◆休日について
・休みがない

◆解雇・退職について
・予告なしに突然解雇された
・不当な解雇・懲戒処分
・退職させてもらえなかった

◆最低賃金
・最低賃金を下回っている
・内職(家内労働)の最低工賃を下回っている

◆その他
・業務上のミスによる会社からの損害賠償請求

労災に関する内容

 続いて、労災について相談出来る内容についてお伝えします。例えば、以下のような相談が可能です。

・仕事中に怪我をした場合の労災保険で治療する方法
・労災保険給付の内容について
・会社が仕事中の怪我を労働災害扱いにしたがどのように対処をすればよいか
・労災保険を請求する際の手続を教えてほしい
・労災で治療を受けている病院を変更する方法
・通勤途中の事故等の通勤災害は労災が下りるかどうか
・労災隠し(労災が発生した際に会社が労働基準監督署への報告をしない、もしくは虚偽の報告をすること)について

安全衛生に関する内容

 最後は、安全衛生に関する内容についてです。主に以下の内容の相談が可能です。

・玉掛け技能講習を受けるにはどのような手続が必要か
・免許を紛失したが再交付してもらうためにはどうすればよいか
・会社で健康診断が行われない
・健康管理手帳の交付を受けたい
・無試験で衛生管理免許証を交付してもらうにはどのような方法があるか
・安全への配慮が不十分な危険な現場での作業をしている

 上記に挙げた内容はあくまでも代表例です。上記に該当しない場合でも、法律違反に該当しそうな場合は相談することが出来るかもしれません。

残業代に関しての相談は弁護士にも出来ます

労働基準法外の内容についての相談先

 以上のように相談出来る内容は多いものの、労働基準法に触れないものに関しては相談を受けていません。とはいえ、職場での問題は労働基準法外のものもあります。パワハラ(=職場いじめ)やセクハラ等がその代表例です。

 実は、労働基準法違反に該当しない労働問題の相談に対応している場所があります。パワハラやセクハラを含めて、それぞれの労働問題がどこで相談にのってくれるかを以下に表にしてみました。

相談内容 相談先
・セクハラ(セクシャルハラスメント)

・モラハラ(モラルハラスメント)

・マタハラ(マタニティハラスメント:妊娠や出産、育児をきっかけに職場で嫌がらせを受けたり不利益を被ったりすること)

・うつ病等で体調を崩したことによる休職について

・会社が原因でうつ病になったので慰謝料を請求したい

・解雇の理由に納得出来ない

・女性蔑視による不平等な待遇

・育児・介護休暇を受けられない

・その他、職場に対する不満

総合労働相談コーナー
・育休・産休切り(育休や出産を機に女性が会社から解雇を言い渡されること) 労働局
・雇用保険を受けるにはどうすればよいか

・自己都合退職について

・離職届が届かない

公共職業安定所(ハローワーク)
・社会保険や厚生年金について 年金事務所
・労働判例を調べたい 全国労働基準関係団体連合会

労働基準監督署に寄せられる相談事例

 さて、長野労働局のホームぺージでは、労働基準監督署に多く寄せられる相談事例とそれらに対する返答が掲載されています。
 ここでは、有給休暇、退職金、パワハラに関する相談事例を一部ご紹介します。

有給休暇に関する相談事例

相談内容 返答
会社は年次有給休暇について、何も言ってくれません。年次有給休暇を取る場合、どうすればいいのでしょうか。 まず、会社の就業規則に年次有給休暇についてどのように規定されているか確認する必要があります。

また、年次有給休暇は労働基準法第39条により最低限の付与日数等定められていますので、会社側に一度、年次有給休暇の請求をしてみてください。

退職するので、今まで使わなかった年次有給休暇を買上げてもらうよう会社に請求しましたが、いい返事をしてくれません。
年次有給休暇も取らず、一生懸命働いてきたので、会社は年次有給休暇の買上げをしてくれてもいいと思うのですが。
退職の際、残日数に応じて調整的に金銭の給付をすることは、必ずしも労働基準法に違反するものではありません。

その一方で、時効や退職に伴い、消滅する年次有給休暇について事業主が買い上げを行うことは、労働基準法では義務付けられていません。

出典:長野労働局ホームぺージ(https://jsite.mhlw.go.jp/nagano-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/roudoukijun_keiyaku/_119807/mondai01_10/soudan7.html)

出典:長野労働局ホームぺージ(https://jsite.mhlw.go.jp/nagano-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/roudoukijun_keiyaku/_119807/mondai01_10/soudan7.html)

相談内容 返答
退職金はいずれ振り込むと言われたのに、いまだに支払いがありません。どうすればいいのでしょうか。 就業規則等における退職金規程の内容で、支払日等を確認する必要があります。
自分が入社した時の退職金の規程では150万円になるのに、会社は「今の規程ではこうなっている。」と言って100万円しか払ってくれません。また、「今の規程は監督署へ届出して認められている。」とも言われます。許されるのでしょうか。 今の規程(入社した時の就業規則より不利益に変更された現在の就業規則)が民事的に有効なものとして認められるか否かが問題となってきます。労働契約法第10条により、労働者にとって不利益変更であっても合理的な理由による変更であれば有効と認められる余地もあり、最終的な判断は裁判所に委ねるしかありません。

 

なお、就業規則の届出は、労働基準法第89条に基づくものですから、それによって刑事的な責任は免れますが、民事的な内容の有効性とは別の問題です。よって労働基準監督署へ届け出ることによって、内容が必ず有効となるものではありません。

出典:長野労働局ホームぺージ(https://jsite.mhlw.go.jp/nagano-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/roudoukijun_keiyaku/_119807/mondai01_10/soudan6.html)

労働時間に関する相談事例

相談内容 返答
社内で行う自主的な勉強会の時間も労働時間になるのでしょうか。 使用者の指揮命令下にないのであれば、労働時間にはなりません。労働時間は、使用者の指揮命令下にある時間を言います。

指揮命令下とは、使用者がその場に居なかったり、命令していなくとも、実態として指揮命令下にあるとものと同等の状態を含みます。
したがって、勉強会が「自主的」と銘打っていても、使用者の関与が強く、出席が事実上強制されている実態にある場合には、労働時間となります。

早朝から夜遅くまで働いているのに、お昼に休憩があるだけで、夕食を食べる時間もありません。また、お昼もお客が来ると取れません。休憩の制度はどうなっていますか。 労働基準法第34条により、労働時間が6時間を超える場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は少なくとも60分の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならないことになっています。

なお、休憩時間とは労働から離れることを保障されている時間で、自由に利用できる時間であり、いわゆる手待ち時間は労働時間となります。

出典:長野労働局ホームぺージ(https://jsite.mhlw.go.jp/nagano-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/roudoukijun_keiyaku/_119807/mondai01_10/soudan4.html)

 その他の相談事例に関しては、「労働基準監督署へ多く寄せられる相談事例」からご覧ください。

終わりに

労働基準監督署は”労働問題について相談が出来る場所”と認知していても、「この労働問題について相談をしていいものだろうか」と不安に感じる方は多いようです。
相談出来るかどうかの判断ポイントは、労働基準法に触れているかどうかです。本記事で挙げている「相談出来る内容」に該当するようであれば、労働基準監督署に相談をしてみましょう。

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古閑 孝 (弁護士)アドニス法律事務所

日々の生活においてお仕事の中でおきる、残業代の未払いの問題は、近年ご相談が増えている分野であり、当事務所でも多くのご相談をいただいております。 ここで知っておきたいことは、残業代の請求ができるのは、支払うべき日から2年後までが請求の対象となっている...

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