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完全歩合制で雇われていたら違法かも:歩合制をまるっと解説

更新日:2024年02月19日
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歩合制(ぶあいせい)になって給与が増えたと喜んでいたのも束の間、次の月は成果が出せず給与が極端に下がって落胆。そんな経験をお持ちの方もいるのではいなでしょうか。
 実は、歩合制は運用方法によって違法の可能性があります。
 そこで、歩合制について深くご紹介していきたいと思います。

歩合制とは

 歩合制とは、本人の成果に応じて支払われる「成果報酬型」の給与制度のことをいいます。仕事の業績に関わらず固定で支給される給料制とは異なります。

「固定給+歩合給」と「完全歩合制」

 一口に歩合制といっても、その形態は以下の2種類に分かれます。

固定給+歩合給

会社で雇われている労働者に一番多い歩合制が、あらかじめ決められた固定給に歩合給を組み合わせた「固定給+歩合給」の給与形態です。
 一定の固定給が保障されているため、成績に関わらず安定した生活を送ることが出来ます。
 但し、その固定給は比較的低めに設定されているケースが多いです。

完全歩合制

 一方、固定給が一切支払われず、成果に応じた給与のみが支払わるのが完全歩合制です。フルコミッションともいわれています。
 好成績を残せば高い給与を手に出来ますが、全く成果を残せない場合は給与がゼロになるため、リスクがある給与形態です。
 ただ、実力に自信がある方や、成績等を見える形で評価されたい方にとっては、適していると言えるでしょう。

また、労働基準法27条では歩合給について以下のように定められています。

出来高払制その他請負制で使用する労働者については、使用者は、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならない

「使用者(会社)は郎等時間に応じ一定の賃金額の賃金を保障しなければならない」とされていることから、会社は雇用契約を結んでいる労働者に完全歩合制を採用することは出来ません。完全歩合制が採用出来るのは、会社と業務委託契約等を結んでいる個人事業主等です。

歩合制のメリット

 歩合制には以下のようなメリットがあります。

自身の努力が給与に直結しやすい

 歩合制が採用されると、変動がなく支払われる給料制より多くの給与が期待出来ます。 そのため、自身の努力が給与に直結しやすいメリットがあるのです。

モチベーションアップに繋がりやすい

 「自身の努力が給与に直結しやすい」=「モチベーションアップに繋がりやすい」というメリットも生じます。モチベーションが上がると、労働者はクリエイティブな思考になり好成績を残すようになります。

自身の裁量で仕事が出来る

 完全歩合制の場合、勤務時間を自身の裁量で決定出来ます。成果がよければ勤務時間を短くしたり成果が思わしくなければ長くしたり等、調整が可能になります。
 固定の時間で働かなくてよいため、自分の都合や計画に沿って仕事を進められます。

歩合制が多い業界・職種

 以上のようなメリットがあることから、次のような業界・職種で歩合制が採用されるケースが多いです。

営業職

 商品を売ったり、契約を結んだりする営業職では歩合制を導入しているケースが多いです。営業職は、その人の頑張りが販売数や契約数等で数値化出来るためです。会社の売上を上げるためには、営業マンに自社の商品を売ってもらわなければなりません。

 そのため、営業マンの意欲を掻き立てるための施策として歩合制が導入されています。特に次に挙げる営業職が多い傾向にあります。

保険会社

 保険会社では、契約数に応じた歩合制を導入しています。保険の契約は大きなお金が動いたり、長期に渡って利益を得られたりします。その利益分を社員に還元出来る歩合制を採用している会社は多いのです。

不動産会社

 不動産会社の場合も1つの契約で大きなお金が動くため、利益分を社員に還元する歩合制を導入しているケースが多いです。また、支払われる歩合給が多いのも特徴です。

タクシー運転手

 タクシー運転手も歩合制が導入されている職種の1つです。乗車件数ではなく、売上に対して歩合給が計算されるため、長距離の運転をしたり深夜に稼働したりした方が稼ぎやすい傾向にあります。

美容師

 美容師にも歩合制が採用されます。美容師の場合、指名数によってお店への売り上げ貢献度が異なるため、「頑張った人には頑張った分を」という意図で歩合給が支払われることが多いです。

ビールの売り子

 野球場等で観戦している人を相手にビール販売を行う売り子に対しても歩合制が採用されています。ビールを売った数が多くなるにつれ歩合給が増えます。

歩合制のデメリット

 メリットを生かし歩合制を採用している業界・職種がありますが、その一方でデメリットもあります。

収入が減る可能性がある

 成果を上げれば給与は増えますが、成績を残せなければ収入が減るデメリットもあります。まさに表裏一体なのです。
 特に、完全歩合制の場合は成果を上げられなければ、給与にダイレクトに響いてしまうリスクが生じます。

努力と収入が見合わない

 自身の努力が収入に直結しやすい一方で、頑張りが実らない場合もあります。そのような場合は、比較的低めの設定されている固定給のみでの生活を余儀なくなれるケースも否定出来ません。

会社内がギスギスする

 歩合制を採用する企業では、社員それぞれが業績を競い合うライバルにもなります。
 お互いが成績アップのために主体的に行動を起こすことは相乗効果に繋がりますが、そんな姿勢を気持ちよく思わない労働者がいるのも事実です。

 結果、足を引っ張る労働者が現れ、社内がギスギスした人間関係になるおそれがあります。

「固定給+歩合給」の規定

 ここからは、会社で雇われている社員等に採用される歩合制「固定給+歩合給」の規定についてお伝えします。

労働基準法による規定

 労働基準法等では、労働者に不利益が被らないように2つの規定があります。

・最低賃金
・保障給

 それぞれ見ていきましょう。

最低賃金

 最低賃金とは、法律で定められた賃金の下限額のことを指します。会社と雇用関係を結んでいる労働者は、この最低賃金を下回る賃金での労働は認められていません。最低賃金は各都道府県でそれぞれ定められています。平成29年度現在の最低賃金はコチラ
からチェックすることが出来ます。

「固定給+歩合給」においても、最低賃金を下回ってはなりません。

 「固定給+歩合給」の場合、「1時間あたりの賃金(時給)」の算出方法は、固定給と歩合給の合計額から計算をしていきます。

保障給

労働基準法27条で定められている「会社は労働時間の応じ一定額の賃金の保障をしなければならない」の、”一定額の賃金”のことを保障給といいます。
「固定給+歩合給」が採用されている労働者には、この保障給が該当します。
 保障給は、行政の通達によって「支払われた賃金の6割以上が固定賃金か否か」が1つの目安とされています。

例えば、給与総額に対して歩合給の割合が4割を超えたとします。その場合、給与総額に対して固定給が6割以上になるように増額をしなければなりません。この増額分が保障給に当たるのです。

計算方法の規定

 続いて計算方法の規定についてお伝えしていきます。

残業代

 残業代の計算方法は以下の通りです。

1時間あたりの賃金×残業時間×1.25(割増率)

 欠勤をしたり年次有給休暇を取得したりした場合は、それらの分の労働時間は加算せずに計算をします。

年次有給休暇

 「固定給+歩合給」の場合、年次有給休暇の賃金算出方法は次の計算方法で算出をします。

(歩合給÷1ヶ月の総労働時間)×1日の労働時間

 例えば、当該月が以下の条件だったとします。

・1日の労働時間は8時間
・1ヶ月の総労働時間は160時間
・歩合給は8万円

 その場合、(80,000÷160)×8=4000円が年次有給休暇に対して支払われる額になります。

歩合制が違法になるケース

 以上で説明させていただいた通り歩合制には様々な規定があります。そのため、違法に歩合制を採用しているケースも少なくありません。
 
 ここでは、歩合制が違法になるケースについて触れていきます。

雇われているにも関わらず完全歩合制

 既述の通り、会社から雇われて社員や契約社員として働いているにも関わらず、完全歩合制を採用されている場合は違法の可能性が考えられます。

 完全歩合制が採用出来るのは会社と雇用契約を結ばず、業務委託契約を結んでいる個人事業主等です。
個人事業主としての契約となれば、労働基準法が適用されません。そのため。労働基準法27条で定められている「会社は労働時間の応じ一定額の賃金の保障をしなければならない」が適用されないのです。
 そのため、業務委託には完全歩合制が採用出来るのです。

最低賃金より低い「固定給+歩合給」

 「固定給+歩合給」の歩合制が最低賃金より低い場合は、違法の可能性があります。とりわけ、固定給が極端に低いと最低賃金を下回る可能性が高くなります。
 そのため、固定給が低い方は注意した方がよいでしょう。

残業代に関する困りごとは弁護士へ相談を

歩合制は、ビジネスマンにとっては成果が見えやすくやりがいに繋がる制度であると言えるでしょう。

その一方で、労働基準法を無視した歩合制の運用が横行し、労働時間に見合わない賃金で働いている労働者も少なくありません。また、会社と雇用契約を結んでいるにも関わらず完全歩合制を採用されている労働者もいます。

そのような方は違法に残業をさせられている可能性が考えられるでしょう。
 
働いた分の賃金を支給してもらうことは労働者にとって当然の義務であります。未払いの残業代があるようであれば請求を検討した方がよいでしょう。

そこで頼りになるのが「弁護士」の存在です。

法律のプロである弁護士なら、個々の状況に合わせて相談に乗ってくれるだけでなく、労働上で起きやすいトラブルを未然に防いでくれます。

労働トラブルに詳しい弁護士に相談し、自分の身を守りましょう。

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 残業代の請求方法については、下記の記事を読んでみて下さい。残業代請求に向けてするべきことが理解出来るでしょう。

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