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法律上、残業代を15分単位で支払うのは違法である

更新日:2024年02月08日
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 前から、日本人は「働き過ぎ」と言われてきました。その象徴として、1970年には”モーレツ社員”という猛烈に働く社員を指す言葉も出現しました。
 あれから約50年。日本人の働き方は大きく変化し、仕事だけでなくプライベートも重視する「ワークライフバランス」という考え方が広がりを見せています。

それに伴い、会社のためだったら無賃金で働くことをいとわない、という考え方も淘汰されつつあり、サービス残業に対する目が厳しくなっているのです。
それによって、労働者の中には「残業代が出るのは何分単位なのか」という疑問の声が増えていまます。

一般的によく行われているのが15分、もしくは30分単位で残業代を支給する方法です。
では、果たしてそれは本来正しい残業の支払い方法なのでしょうか。本記事では、「残業代を15分単位で支払う方法は正しいのかどうか」をテーマにお伝えしていきたいと思います。

法律上は1単位で残業代を支払う必要がある

 残業代は何分単位で支払わなければならないのか、については次に挙げる労働基準法の規定を見ると判断が出来ます。

■労働基準法37条

使用者(会社)が、労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない

 

■労働基準法24条

賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない

以上の規定を端的にまとめると、「労働時間を延長し、または休日に労働させた場合、その働いた時間分の賃金を全額労働者に支払わなければならない」になります。
 つまり、残業代は1分単位で支払わなければならない、ということが言えるでしょう。同時に、15分単位での残業代の支払いは違法の可能性が考えられます。

通達で認められている切り捨て条件

 ただ、残業代の支払いは1ヶ月分をまとめて支払うのが一般的です。そのため厚生労働省からの通達(1988年3月14日基発第150号)により次の事項が例外的に認められています。

1ヶ月間の合計残業時間に1時間未満の端数がある場合、30分未満は切り捨て、30分以上は1時間に切り上げる

例えば、通達では下記の例を認めているのです。

◎1ヶ月の残業時間が「20時間20分」であれば端数を切り捨てて、「20時間」で残業代の計算をしても問題はない

但し、1ヶ月の残業時間が「20時間40分」の場合、端数を切り捨てて「20時間」で残業代の計算をするのは認められていません。

1日単位の単数切り捨ては違法

 よって、1日単位で残業時間を切り捨てるのは違法に当たるのです。
 例えば、定時が9~18時(休憩1時間)の会社で以下のような労働をした日があるとします。

出勤時間…9:00
退勤時間…18:14

 退社時間を18:00と見なし、14分間の残業を切り捨てるのはNGです。5分や10分でも実際に労働した時間としてカウントしなければならないため、毎日の残業時間の端数切り捨ては違法になります。

労働者に有利な切り上げはOK

 対して、切り上げは労働基準法の観点から見て問題はないとされています。例えば、15分未満は15分働いたものと見なしたり、1時間未満は1時間働いたものとして扱ったり等のケースです。

よくある端数切り捨てパターン

 端数を切り捨てて違法に残業させているケースは次のように様々です。

【ケース①】遅刻時間の切り上げ・早退時間の切り下げ

遅刻や早退の場合も1分単位で労働時間を記録するのが原則です。
 例えば、始業時間が10:00で遅刻をして10:08に出社したとします。この場合、切り上げて10:15や10:30に切り上げるのは違法の可能性があります。本来は10:08に記録を取らなければなりません。
 早退の場合も同様のことが言えます。例えば16:07に早退したとします。この場合は、切り下げて16:00で記録をするのではなく、16:07で記録をとらなければなりません。

【ケース②】就業規則に「15分単位でないと残業代が出さない」と定められている

 就業規則に「15分単位でないと残業代は支払わない」といった内容の文言が入っている場合は効力を発揮しない可能性があります。
 このような内容を就業規則に入れる会社では、おしゃべり等をしていて勤怠を押すのが遅くなったりして残業代は発生するのを防ぎたいという意向があるでしょう。

 しかし、15分未満で残業が現実に行われているようであれば、この効力はそもそも無効であり、実際に働いた分の賃金を支払わなければならないのです。
 つまり、就業規則等で会社独自の規定を設けても、必ずしも指定した分単位で残業時間の計算を出来るとは限らないと言えるでしょう。

【ケース③】閉店後は切り捨て

 サービス業の労働者によく見られるのが、お店の閉店時間が終業時間になっているというケースです。お店の閉店とともに仕事が終わるというのはほぼないでしょう。というのもレジ締めをしなければならないためです。過不足がなければ、5~10分程でおわることが多いですが、過不足金があれば30分近くかかることが往々にしてあります。しかし、その働いた時間分は端数として切り捨てられるケースは少なくありません
 しかし、これも歴とした労働時間に当たるため、違法に残業をさせられている可能性は否定出来ません。

【ケース④】始業前の朝礼・終業後の終礼

 始業前の朝礼や就業後に行われる終礼は、5~10分ほどで終わるため端数切り捨ての対象になりがちです。しかし、これらも労働時間に該当するため端数の切り捨ては違法になる可能性があります。
 また始業時間の15分前には出勤をしなければならないと決められている場合や始業前には作業着に着替えなければならない端数時間分も本来は賃金を支払われなければなりません。

【ケース⑤】派遣会社が端数分を切り捨てている

 派遣社員として働いている方は、残業をすると、派遣先は1分単位で残業代を派遣会社に支給しているにも関わらず、契約している派遣会社からは15分未満もしくは30分未満の端数は切り捨てて給与が支払われているケースもあります。この場合も違法の可能性が考えられます。

【ケース⑥】一定の時間は残業と見なさない

 一定の時間は残業と見なさない、といった会社独自のルールを設けて端数を切り捨てるケースもあります。
 例えば、18時が退社期間の会社があるとします。その場合、18時半まで働いても残業代は出さず、18時半以降から残業代を出すという独自のルールを設けている会社があります。しかし、たとえ独自のルールを設けたとしても働いた分の賃金を会社は支払わなければなりません。そのため、このような場合も違法の可能性は否定出来ません。

端数分の残業代の計算方法

 もし以上で挙げた違法ケースに該当し、端数分の残業代が支払われてないようであれば、端数分の残業代を一度計算してどの程度の未払い残業代があるのかを計算してみましょう。

そのためには、はじめに時給(1時間あたりの賃金)がいくらかを計算する必要があります。時給は次の計算方法で算出することが出来ます。

時給=基礎賃金÷月間平均所定労働時間

 詳しく知りたい方は、下記の記事をご覧ください。

 時給を算出した後は、1分当たりの賃金を以下の計算式に当てはめて算出します。

1分当たりの賃金=時給÷60

 そして、算出した1分当たりの賃金に端数分の労働時間を掛け合わせれば、端数分の残業代を算出出来ます。
 この計算の過程で、小数点以下が発生した場合、0.5円以上は1円に切り上げ、0.5円未満は切り捨てする処理が前出の通達で認められています。

対処方法

 端数分から発生した未払い残業代が多く、お困りの方はどのように対処すればよいのでしょうか。主に次の2つが考えられます。

【対処①】労働基準監督署に相談

 まず、労働基準監督署への相談が挙げられます。違法性があるかもしれないと判断が下れば、労働基準監督署は会社を調査し、もし違反の事実が明らかになれば会社に指導や是正勧告が出されます。指導や是正が行われれば、会社が自主的に端数を支払うように改定するケースもありますし、未払い分の残業代が支払われる場合もあります。
 実際、過去には某企業が「10分未満の残業時間を切り捨てていたため残業代の未払いが生じた」として労働基準監督署が、過去2年分の残業時間を1分単位で再計算し、未払い分を従業員に支払うよう是正勧告をしたという例もあります。

【対処②】未払い残業代の請求

 会社に未払いの残業代を請求するのも一手です。とはいえ、多くの労働者は残業代の請求をして会社に居づらくなるという状態を懸念されるでしょう。
 そこで、そのような方のために下記の記事を用意させていただきました。併せてお読みください。

まとめ:未払い残業に関する困りごとは弁護士へ相談を

過去には、某大手居酒屋チェーン店がアルバイトに対して30分未満は切り捨てていたとして問題になった裁判がありました。結果、この裁判では計60名のアルバイトに対し、未払い賃金400万円を支払いました。

1日単位で見れば少額で済みますが、長い目で見ると膨大な未払い残業代が発生します。

もし、15分単位で残業時間が切り捨てられており、サービス残業が多くなっているようであれば、未払い残業代の請求を検討してみてください。

残業代請求をするにあたって頼りになるのが「弁護士」の存在です。

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