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教員の長時間残業に潜伏する「給特法」という名の元凶

更新日:2020年02月25日
教員の長時間残業に潜伏する「給特法」という名の元凶のアイキャッチ

 学校という職場は、「ブラック」です。

 2016年度に文部科学省(教育や文化等を司る国の行政機関)が、公立学校の教員を対象に実施した教員勤務実態調査によると、過労死ライン(月80時間以上の残業)を超えた長時間労働をする教員が、小学校教員で約3割、中学校で約6割という結果が出ています。

そして、1日の平均労働時間が、『小学校教員で11時間15分、中学校教員は11時間32分』(『http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/29/04/__icsFiles/afieldfile/2017/04/28/1385174_001.pdf』)と、長時間労働をしている実態も明らかになりました。これは、1日3時間以上、1週間で15時間以上もの残業をしている計算になります。

 なぜ、公立学校の教員はここまで多くの残業をしているのでしょうか。
 実は、公立学校の教員は法律の下で「残業代なし」と定められているのです。それが長時間労働の温床となり、残業の多さにつながっていると言えるでしょう。

 本記事では、そんな教員の残業について深掘りしていきたいと思います。

公立学校教員は労働基準法37条が適用されない

公立学校教員の残業の多さは、労働基準法37条で定められている「時間外勤務については、割増賃金(時間外手当)を支給しなければならない」が適用されないことが引き金になっています。

 なぜ、公立学校教員には適用されないのでしょうか。この理由に関して、文部科学省(文科省)が以下のように説明をしています。

教員の職務は自発性・創造性に期待する面が大きく、夏休みのように長期の学校休業期間があること等を考慮すると、その勤務の全てにわたって、一般の公務員と同様に、勤務時間の長短によって機械的に評価することは必ずしも適当ではなく、とりわけ時間外勤務手当制度は教員にはなじまない。

引用元:http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/031/siryo/07022716/002.htm

 この説明の中にある、「自発性・創造性」についても以下のように具体的な記述がされています。

※自発性・創造性が求められる教員の職務の例、
・授業準備のための資料作成は、どこまでを対象とするか、どこまで深く掘り下げるかなど、教員の自発性・創造性に負うところが大きい。
・いじめのトラブルを回避するために個別に面談を行う場合など、誰を対象として、どこまで丁寧に面接を行うかは教員の判断に委ねられている。
・部活動において各種の大会やコンクールなどでよい成績を収めるために、どのように指導し、どの程度まで指導を行うかは教員の熱意に基づき自発的に判断されている。

引用元:http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/031/siryo/07022716/002.htm

 つまり教員の職務は、自発性や創造性が高い特殊な業務になるため、労働基準法37条の「時間外勤務については、割増賃金(時間外手当)を支給しなければならない」が適さないという見解なのです。

とはいえ、職員会議や、緊急を要する生徒指導等、時間外勤務をするケースもあります。そのため、1971年に公立学校教員を対象にした特別措置法が制定されました。それが「給特法(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)」です。

給特法の現状

 給特法とは、時間外手当を支給しない代わりに月給の4%に相当する「教職調整額」を支給する、という法律を指します。
 この4%は、1966年に文科省が実施した「教員勤務状況調査」で、1週間における時間外労働の合計が、小中学校で平均1時間48分であったことから算出されたものです。

しかし、冒頭で触れた通り、週で15時間以上もの残業をしている2016年現在において、4%の教職調整額は、もはや乖離(かいり)した支給額になっていると言えるでしょう。今日の時間外労働の対価として、全くもって不十分なのです。

教職調整額は一定の業務に対する支給

 また、教員は基本的に時間外勤務が生じない職務であるため、教職調整額は特質性のある業務に対する支給である、とされています。文科省は以下のように詳しく説明をしています。

そもそも、教職員は、勤務時間の割振り等により、時間外勤務が生じないようにする必要があり、勤務時間外に業務を命ずる時には、超勤4項目に限定される。

(参考)『超勤4項目』:
教育職員については、正規の勤務時間の割振りを適正に行い、原則として時間外勤務を命じないものとすること。
 教育職員に対し時間外勤務を命ずる場合は、次に掲げる業務に従事する場合であって臨時又は緊急のやむを得ない必要があるときに限るものとすること。
イ 校外実習その他生徒の実習に関する業務
ロ 修学旅行その他学校の行事に関する業務
ハ 職員会議(設置者の定めるところにより学校に置かれるものをいう。)に関する業務
ニ 非常災害の場合、児童又は生徒の指導に関し緊急の措置を必要とする場合その他やむを得ない場合に必要な業務

現行制度上では、超勤4項目以外の勤務時間外の業務は、超勤4項目の変更をしない限り、業務内容の内容にかかわらず、教員の自発的行為として整理せざるをえない。
 このため、勤務時間外で超勤4項目に該当しないような教職員の自発的行為に対しては、公費支給はなじまない。

出典元:http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/031/siryo/06111414/003.htm

 上記の説明を要約すると、教職調整額は「超勤4項目」の

(1)校外学習等、生徒の実習に関する業務
(2)修学旅行等の学校行事に関する業務
(3)職員会議の関する業務
(4)緊急の災害時の業務をせざるを得ない場合

に対して支払うものであり、それ以外の業務は教員が自発的に行った行為と見なし、時間外労働に該当しないというものです。

時間外労働が認められなかった判例

 現に過去の裁判でも、超勤4項目以外の残業が時間外労働として認められなかったケースがあります。
 その判例の内容は、教員が学校に対して、超過勤務分の労働賃金請求をした、というものです。しかし、最高裁は原告の訴えを以下のように退けました。

教育職員の時間外勤務は,それが自主的,自発的,創造的に行われるもの ではなく,校長等から勤務時間外に強制的に特定の業務をすることを命じられたと 評価できるような場合には,違法となるものと解される。

引用元:http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/500/081500_hanrei.pdf

 これは要するに、校長等の上司から、強制的に業務を命じられたという証拠がない限りは基本、時間外勤務と認めないということを示しています。

時間外労働を請求するための証拠についてはこちらで詳しく説明をしています。

教員の負担を軽減しようとする動き

 既述の通り、教員の時間外労働は、特質性の高い超勤四項目のみであるべきとされていますが、実状は部活動の指導や授業の準備等、残業をする理由は様々です。
そのため、公立学校の教員は教職調整額に見合わないほどの長時間労働を強いられているのが現状です。

そんな中、2017年に教員の負担を軽減しようと、文科省が教員の負担軽減を目的としたガイドライン(大まかな指針)の取り決めを進めています。
 そのガイドラインでは、「学校以外が担うべき業務」と「負担を軽減すべき業務」に振り分け、それぞれの業務の負担を減らす方針を示しています。

学校以外が担うべき業務

 「学校以外が担うべき業務」では、今まで教員が行っていたものを、専任のスタッフに任せるという方針を示しています。
 「学校以外が担うべき業務」は主に以下が該当します。

・登下校に関する対応
・放課後から夜間の見回りや児童生徒が補導された時の対応
・給食費等の学校徴収金の徴収・管理
・地域ボランティアとの連絡調整

負担を軽減すべき業務

 「負担を軽減すべき業務」では、積極的にサポートスタッフを活用するという改善策が明記されています。
 特に、中学・高校教員の長時間労働の一因になっている部活動については、学習指導要領で学校教育の一環と位置づけられていることから教員の業務であるものの、部活動指導員の活用をする等、負担軽減策が示されています。

 その他、下記に列記した業務も負担軽減の対象業務に挙げられています。

・調査・統計への回答
・児童生徒の休み時間の対応
・校内清掃
・部活動
・給食時の対応
・授業準備
・学習評価や成績の処理
・学校行事等の準備・運営
・進路指導
・支援が必要な児童生徒や家庭への対応

地方自治体が取り組む負担軽減策

 文科省が前出のガイドラインを進めるより以前に、負担軽減の取り組みを行う地方自治体もあります。
 大阪府や神奈川県横浜市、東京都杉並区の取り組みを下記にご紹介します。

■大阪府
 大阪府では2016年から、府立高校と支援学校等を対象に、19時までに全校一斉に帰宅する日と部活動をしない日を、それぞれ週1日設けるよう義務付ける取り組みをしています。

■神奈川県横浜市
神奈川県横浜市では2016年以降、17時に退勤を促す「ハッピーアフタースクール」という日を月に1度設けています。

■東京都杉並区
杉並区では、部活動を担当する教員の負担を減らす取り組みが行われています。某公立中学校のソフトテニス部では週2回、民間企業やNPOから派遣された外部のコーチが部活動の指導に当たっています。
技術面での指導を充実させたうえで、教員の負担を減らすことも目指しています。

国立・私立学校の教員と残業

 時間外労働が多いのは、公立学校の教員だけではありません。国立・私立学校の教員も同様です。国立・私立学校の教員は労働基準法の適用をうけます。にも関わらず、国立・私立学校の教員に支給される残業代は、公立学校教員の教職調整額のように、実際の残業時間分に見合わないほどの「一律の時間外手当」が支給されているケースが多いです。

 また、その国立・私立大学の教員は一般的に「裁量労働制」が採用されています。裁量労働制とは、時間で賃金を決めることに馴染まない労働者に対し、実働労働時間に関わらず「労使協定(労働者と会社の間で取り決めした内容を書面化したもの)を結んで合意した時間数を1日の労働時間とみなす」制度です。

大学教員は研究の業績を上げることを至上命題にされていることが多いため、事前に決めた時間数を超えての労働が頻発し、残業代が支給されていないのが現状です。

→「採用労働制」についてはこちらで詳しく説明をしています。

終わりに

 公立学校の教員は、過去に定められた給特法という法律によって長時間労働を強いられていることがお分かりいただけたでしょうか。この影響は、給特法が適用されない国立・私立学校の教員にまで波及しています。

そのような中、地方自治体が率先して教員の負担軽減に取り組んでいますが、それだけでは根本の解決には至らないのではないでしょうか。「過去のデータから定められた給特法」から、“現代版給特法"に向けた抜本的な改善が今、政府に求められているのかもしれません。

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