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状況別に解説!退職させてもらえない時の対処法

更新日:2021年03月24日
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人材不足が叫ばれる昨今、あらゆる引き留めにより会社を退職させてもらえない在職強要が問題になっています。
在職強要に対し、労働者にはどのような対処方法があるのでしょうか。

様々な在職強要

 在職強要には、以下のような事例がよく挙げられます。

・退職届が受理されない
・「次の人が見つかるまで待って欲しい」と引き留められる
・「辞めたら損害賠償請求する」と脅される
・最終月の給与と退職金の不払いを宣告される
・未消化の有給休暇を消化させない
・会社への借金を返済するまで働くように強要される
・破損させてしまった会社の備品の弁償を終えるまで勤続するよう強要される

 このように、不条理な在籍強要が行われています。実は、これらの在籍強要は法的に違反している可能性があります。

法律上の退職ルール

 民法第627条では次のように定められています。

■民法第627条
当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申し入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申し入れの日から2週間を経過することによって終了する。

雇用期間を定めない労働者には正社員やアルバイト等が該当します。つまり、正社員は退職の意思を伝えた日の2週間後に辞職することが可能なのです。
 一方、契約社員等の有期労働者は、病気や怪我、介護等やむを得ない事情を除き、退職することが出来ないことを民法第627条は示しています。

就業規則に退職に関する規定がある場合

 就業規則で、退職する場合は14日を超える予告期間が求められている場合は、2週間後の退職は不可能なのでしょうか。
その場合、前出の民法が優先されると考えられています。但し、就業規則を無視した退職はトラブルになるおそれがあります。会社とよく話し合う必要があるでしょう。

退職させてもらえない場合の対処法

 会社から受理されず退職させてもらえない場合、下記の方法で対処すると効果的かもしれません。

■内容証明郵便で退職届を郵送する
■労働基準監督署に相談する
■ハローワークに相談する
■弁護士に相談する

・内容証明郵便とは

「誰が、誰宛てに、いつ、どんな内容の書類を出したのか」ということを郵便局が公的に証明する郵便です。
⒈ 書類を出したこと
⒉ 書類を出した日付
⒊ 書類の内容
を郵便局が証明してくれます。

但し、退職させてもらえないケースは様々です。そのケースに合わせた対処法を採るのがよいでしょう。

違法な在籍強要に対する対処法

違法な在籍強要に対する対処法

それでは、在籍強要のケースに合わせた対処法を見ていきましょう。

【対処法①】後任が見つかるまで退職を認めない

 退職希望者に対し、「後任が見つからないから退職は許さない」と在籍強要を行うケースが間々あります。
 後任が見つかるかどうかは企業側の問題であり、労働者の責任ではありません。後任の有無に関わらず、労働者は自由意思で退職することが可能です。

 退職の意思表示は、次のようにするとよいでしょう。


・直属の上司や人事にメールを送る
・退職届を内容証明郵便で会社に送る

 上記の方法は、客観的な証拠にもなり得ます。もし会社から「退職することなんて聞いていない」等と主張されたとしても、退職の意思表示をしたなによりの証拠になるのです。

【対処法②】給与を支払わない

 会社から「今、辞められると迷惑だから残りの給与は支払わない」と言われる在籍強要も少なくありません。
 とはいえ、労働者が働いた分の労働賃金を支払うのは会社の義務です。退職後に未払い分の賃金を請求しましょう。

 そのためには、働いた事実が客観的に分かる根拠が必要です。シフト表や業務日報のコピー、給与明細書や雇用契約書等の資料を手元に集め、退職後に請求する準備をしておきましょう。

【対処法③】離職票を出さない

 「退職するなら離職票を出さない」と嫌がらせをするケースもあります。離職票は、失業保険を受給するのに必須の書類です。失業保険の受け取りをさせないよう圧力をかけて、在職強要する手口です。

 しかし、実はハローワークで離職票の発行は可能なのです。退職後、10日経過しても離職票が自宅に届かない場合、発行する職権があるハローワークに向かい離職票発行の手続を行いましょう。

【対処法④】有給休暇を消化させない

 退職時に有給休暇の消化を拒否されるケースもあります。しかし法律上、有給休暇は労働者が申請すれば無条件で取得することが出来ます。
 労働者には以下の日数の有給休暇が付与されるので、退職時の残っているようであれば会社に申請して全て消化しましょう。

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勤続年数 有給休暇の付与日数 半年 10日 1年6ヶ月 11日 2年6ヶ月 12日 3年6ヶ月 14日 4年6ヶ月 16日 5年6ヶ月 18日 6年6ヶ月 20日

【対処法⑤】懲戒解雇する

 会社から「懲戒解雇(社内の秩序を著しく乱した労働者にペナルティとして行う解雇)にするぞ」と脅されて退職に踏み込めない方もいます。
 ですが、労働者が就業規則に明記されている違反行為をしない限り、会社は懲戒解雇することは出来ません。

 自身が就業規則に違反するような行為をしていないのであれば取り合う必要はないでしょう。
 万が一、不当な懲戒解雇を受けた場合は、速やかに撤回させなければなりません。労働基準監督署や弁護士に相談をしましょう。

【対処法⑥】退職金を出さない

 退職時に、「退職金が出ないと言われた」という悩みを持つ方が多いようです。会社から退職金が支払われない場合、以下の2つのパターンが考えられます。

そもそも退職金制度がない

 多くの会社では退職金の制度が導入されているため、退職をしたら退職金が支払われるのが当然と考えている方は少なくないのではないでしょうか。実は退職金制度の導入は、労働基準法で定められていません。そのため、自身が働く会社に退職金制度が導入されていないのであれば、退職金を請求することは出来ません。

退職金制度があるが支払いを拒否

 もし、あなたの会社で

・就業規則や雇用契約等で退職金制度について規定がある
・就業規則や雇用契約には明記されていないが、これまでの慣行で事実上退職金制度が存在している

という場合は、退職金を請求出来る可能性が高いです。この場合、

・退職金制度が存在することを証明出来る証拠(就業規則や雇用契約等)
・在職していた証拠(タイムカード、シフト表、日報、手帳のメモ等)

を収集し、自分で直接、もしくは弁護士等の専門家に依頼して請求手続きを行うことをおすすめします。

【対処法⑦】損害賠償を請求する

 退職を理由に損害賠償を請求する、と言われたとしても雇用契約書等で違約金の請求に関する規定がない場合は、損害賠償の請求は認められません。
 労働基準法第16条では以下のように定められています。

労働基準法16条
「労働契約の不履行についての違約金の定めや損害賠償の予定」は禁止

そのため、社員の都合で退職する場合に、違約金や損害賠償を請求する等の行為も法律上禁止されているのです。

また、「会社の備品を壊したから、退職するなら損害賠償請求する」と言われ会社を辞められないというケースもあります。
しかし、労働者が備品を壊してしまったとしても通常は会社が保険に入っているため、損害賠償されることはありません。
会社が保険に入っていない場合でも、過去の判例から、以下のように損害賠償が制限されています。

・労働者の故意または重過失がなければならないこと
・故意または重過失があったとしても、全ての損害を賠償する必要はないこと

 ですので、退職の意思を伝えた際、損害賠償を利用して在籍強要をされたとしても、多額の損害が発生する可能性はゼロに近いと言えるでしょう。

【対処法⑧】就業規則に記載されている違約金を請求される

 会社の就業規則に「3ヶ月以内に退職する場合は10万円を支払う」といったように、違約金に関する規定がある場合は従わなければならないのでしょうか。

 労働基準法では、「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、または損害賠償額を予定する契約をしてはならない」と定められています。
そのため、就業規則に違約金に関する規定を記載する行為は違法の可能性が高いと言えるでしょう。

無論、退職時に違約金を請求されたとしても支払う必要はありません。万が一、給与から天引きされる等の強硬手段を採られた場合は、労働基準監督署に相談をしましょう。

【対処法⑨】退職届を受け取ってもらえない

 労働者を退職させないために、退職届の受け取りを断固拒否する会社も少なくありません。
 法律では「退職の意思を伝えた後、2週間を経過すれば退職出来る」という内容の規定があり、退職の意思を伝える手段については定められていません。
 つまり、会社に退職届を受け取ってもらえなくても、口頭で退職の意思を伝えていれば退職することは可能なのです。

 とはいえ、口頭のみで退職の意思を伝えると「言った言わない」の押し問答が起こる可能性があります。それを避けるためにも、客観的に分かる内容証明郵便で退職届を送付し、証拠が残る方法で退職の意思を伝えるがベターです。

【対処法⑩】指定された退職日がだいぶ先

 退職の意思を伝えたら、自身が希望する退職日からはほど遠い日にちを退職日に指定する会社もあります。
 とはいえ、会社の命令に従う必要はありません。過去には「役職者が退職する場合、6ヶ月以上前に退職届を提出しなければならないという就業規則は違法」という判決が下された事例があります。

法的に見ても退職の意思を伝えれば2週間で辞められるので、早めに退職出来るよう話を進めていきましょう。

【対処法⑪】妊娠を機に退職を希望しても辞めさせてくれない

また、妊娠を機に辞めようと思っても、退職を先延ばしにされるケースも少なくないようです。そのような場合も、退職の意思を伝えれば2週間後に辞めることが可能です。

【対処法⑫】適応障害で勤続不可能にも関わらず退職させてもらえない

 病因で適応障害と診断され診断書を会社に提出したにも関わらず退職させてもらえないというケースもあります。しかし、退職の意思を伝えれば2週間後に辞職することが可能です。

【対処法⑬】「残業時間が長いから」という退職理由に対し「改善する」と言われる

 残業時間が長いことを理由に退職の意思を伝えたら、「改善するのでやめないでほしい」と引き留められるケースもあります。
「改善する」という言葉を引き出せた場合はチャンスです。残業になっている要因を分析した上で、改善要求をしましょう。
改善が見られない場合は、見切りをつけ退職に踏み出すのがよいでしょう。

【対処法⑭】その退職願は認めない

 世俗的には、退職願が受理された後に退職届を提出するのが主流になっています。中には、「その退職願は認めない」と言われ退職届を提出出来ずにいる方もいるでしょう。

 しかし法律では、退職の意思を伝える手段に関する規定がありません。はじめから退職届を提出して問題ないのです。
 退職するためには、提出の順序に捉われず退職の意思を伝えることが何よりも肝心なのです。

【対処法⑮】会社にした借金を理由に退職させてもらえない

 会社に対して借金があり、「借金があるため会社を辞めさせない」「借金を一括で返済しないと退職出来ない」と言われるのもよく挙げられる退職時のトラブルです。

労働基準法では、会社は社員の借金を理由に社員の退職を拒否して社員の身分を拘束することが禁じられています。
 ですので、会社と退職後の返済計画を話し合った上で退職したり、弁護士に依頼して借金の返済についての代理交渉をしてもったり等の手立てをとるとよいでしょう。

在籍強要に屈せず退職した方の体験談

 ここで、在籍強要に屈せず退職した方の体験談をお届けいたします。

★退職に応じてくれなったので強行手続★(営業職・25歳・女性)

新卒で入社した会社で3年間働きましたが、他にやりたいことを見つけたので退職を決意しました。
しかし、上司が取り合ってくれず退職手続は難航。既に、転職先の入社日が決まっていたため、在職中に退職届を内容証明郵便で会社に送付して強行姿勢を採りました。
会社に退職届が届いてから退職するまでの2週間は肩身の狭い思いをしましたが、「早く辞めてやりたい仕事をしたい」という思いの方が勝ったので何とか乗り切ることが出来ました。

引継ぎについては、上司と話が出来るような雰囲気ではなかったため、資料にまとめてデスクに残しておきました。最終出社日は仲のよい同僚にだけ挨拶をして、ひっそりと退社しました。

★脅迫に怯えながら、どうにかして退職★(事務職・32歳・男性)

人手が足りないことが原因で毎日の長時間残業が常態化していました。そんな生活が原因で、体調を崩すことも少なくありませんでした。ほとほと嫌になり、上司に退職する旨を伝えました。

はじめは「君が辞めたら会社がまわらなくなるよ」と優しく引き留められましたが、退職の意思を変えない私に対し、次第に在籍強要がエスカレートするようになりました。
終いには「うちを辞めるならこの業界で働けなくしてやる」と脅しともとれる言動を見せるようにまでなったのです。
怖かったですが、ここで引き下がると一生この生活から抜け出せないと思ったので、断固とした決意で社長に直談判し、どうにか退職にこぎつけました。

結果、同じ業界に転職することが出来ました。上司のセリフは単なる脅しに過ぎなかったのでした。
人手の足りない会社を辞めるのは申し訳ない気持ちもありましたが、自分の気持ちに正直になる、一歩踏み出す勇気が大切だと強く思いました。

最後に

 本記事では、退職させてもらえない場合の対処方法を中心にお伝えしましたが、なるだけトラブルが生じないよう労働者側で努力出来ることもあります。
 退職には業務の引継ぎは付き物です。引継ぎを行う時期を考慮して、やはり1~3ヶ月前に退職の意思を表明した方がよいでしょう。

 また、法律上会社側は労働者を引き留める権利がないとは言え、2週間後に退職されるのは困るものです。急な退職は執拗な引き留めに遭う原因にもなりかねません。それを避けるためにも、1~3ヶ月前に退職の意思を示した方がよいでしょう。それが円満退社に繋がるのではないでしょうか。

この記事の著者

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残業代請求弁護士ガイド 編集部

残業代請求に関する記事を専門家と連携しながら執筆中 ぜひ残業代請求の参考にしてみてください。 悩んでいる方は一度弁護士に直接相談することをおすすめします。 今後も残業代請求に関する情報を発信して参ります。

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