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飲食店の「残業代なし」は違法!飲食業でも労働基準法が適用される

更新日:2024年03月26日
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以前、某居酒屋チェーン店の過重労働が話題となったように、飲食業界では長時間の残業が行われており、その分の賃金が支払われていない問題が多く発生しています。
働いた時間分の賃金を支払ってもらうは、労働者として当然の権利です。にも関わらず、残業代が支払われないのは由々しき問題なのです。

 一体なぜ、飲食業界は「残業代なし」が常態化してしまったのでしょうか。

飲食店で残業代が支払われない理由

 某法律事務所の話によると、労働問題に関して最も相談が多いのが飲食店の残業代未払いだそうです。
 飲食店で残業代の未払いが多く生じている理由には以下3つの理由が考えられます。

理由➀お客様相手のため

 飲食店はお客様相手の商売です。閉店時間になってもお客様が帰らなかったり、勤務終了の時間になっても客足が引かずに帰れなかったり等、仕事が長引くことが往々にしてあります。

理由②ギリギリの予算設定

 各店舗の予算を設定しているのは、飲食店を管轄している本社です。店長はその予算に基づき人件費等の調整を行います。
しかし、各店舗に割り振られた予算はギリギリに設定されているケースが多いため、人件費を切り詰めなければなりません。

 よって、以下のような悪循環が生じサービス残業が発生してしまうのです。

ギリギリの予算

お客様相手の商売のため予想外の残業が発生

タイムカードを切ったうえで残業

サービス残業

 また、人件費の削減の一環として、店長以外はアルバイトやパート等の非正規雇用のスタッフで成り立っている飲食店が珍しくありません。そのため、他のスタッフに仕事をふることが出来ない店長や役職に就いてない社員等に業務が集中した結果、よりサービス残業が増えてしまうのです。

理由③営業時間外の業務の軽視

 飲食店を円滑に切り盛りするためには、営業時間外でも行わなければならない業務が以下のようにあります。

◇フロアの清掃
◇食材の仕込み
◇調理器具の洗浄・整理
◇売上の集計

 しかし、現場にいない経営陣は売上に直接繋がらない営業時間外の仕事を軽視しがちです。そのため、労働時間と見なされないことが間々あるのです。

飲食業であっても労働基準法は適用される

 以上の理由の根本には「残業代が出ないのは仕方がないこと」といった飲食業界の慣習があるとも言えます。
しかし、例外なく飲食業であっても労働基準法は適用されます。強行法規である労働基準法においては「飲食店だから適用されない」というケースはないのです。

・強行法規とは
 法令の規定のうち、それに反する当事者間のいかを問わずに適用される規定をいいます。別称“強行規定"と呼ばれています。

飲食店にはびこるサービス残業

パン屋

 飲食店のサービス残業は大きく2つに種類に分かれます。1つは「定額残業制」、もう1つは飲食業界で多く起きている「名ばかり管理職」です。

「定額残業制」によるサービス残業

 役職に就いていない正社員スタッフによるサービス残業で最も多いのが「定額残業制」です。
 定額残業制とは、基本給の中にあらかじめ一定の残業代が含まれている給与形態を指します。例えば、「基本給30万円(30時間分の残業手当45,000円を含む)」というように文言を雇用契約書で交わすイメージです。

 しかし、定額残業制で起こりがちなサービス残業として、以下のようなものがあります。
 求人サイト等で採用情報を覗いてみると

⑴ 「月給25万円(みなし残業時間手当30時間分を含む)+交通費(上限3万円)」
⑵ 「月給22万2,500円(一律残業手当含む)」

このように定額残業制を採り入れている給与条件が見受けられます。この例の問題点として、⑴は残業代の内訳がなく、⑵に至っては残業の時間すら書かれていません。
曖昧な提示の仕方になり、「通常賃金」と「定額残業代」が明確に区分されていないようであれば、定額残業制は成り立っていないも同然と言えるでしょう。もし、このような給与条件で働いているようであれば、労働者はサービス残業を強いられるおそれがあります。

「名ばかり管理職」によるサービス残業

店長によく起こりがちなのが「名ばかり管理職」によるサービス残業です。
「名ばかり管理職」とは、管理職に就いているにも関わらず与えられた業務がそれに値しない労働者のことを指します。この「名ばかり管理職」の特徴として、少ない職務手当がついたうえで、それに見合わないほど多くの残業をさせられているという点です。

これは、労働基準法41条で定められている「管理監督者については労働時間・休憩・休日の規定の適用が除外される」に基づいているものです。しかし、ここでポイントとなるのが、「飲食店の店長」=「労働基準法上の管理監督者」とは限らないということなのです。

労働基準法上の管理監督者とは

では、労働基準法上の管理監督者とはいったいどのような労働者が該当するのでしょうか。過去の判例のおいては、以下の4つの観点から「管理監督者」に該当するかどうかの判断をしています。


(1)一定部門等を統括する立場である
(2)会社経営に関与している
(3)労働時間や仕事を自身でコントロール出来る
(4)給与面で優遇されていること

→「管理監督者」については、こちらで詳しく説明をしています。

「名ばかり管理職」の店長の特徴

 以上を分かりやすく飲食店に当てはめて例にすると、以下のような店長は「名ばかり管理職」かもしれません。


・店舗で働くアルバイトの採用に権限がない
・店舗の経営方針に一切関与していない
・定時後の残業はタイムカードを打刻して行うようにと本社から指示され、労働時間の裁量がない
・給与が残業代込みで支払われたスタッフより低い

 このような店長は少なくないのではないでしょうか。こういった「名ばかり管理職」に該当する店長に残業代を支払うべきとした裁例は多く存在します。
 その中の一例をご紹介します。

■日本マクドナルド事件
 平成18年に、飲食店で働く店長が「管理監督者」に該当しないとして、時間外労働賃金について裁判を起こした事件です。以下の3点から「管理監督者」に当たらない判決が下りました。

⑴ 長時間労働をせざるを得ないことから仕事量の裁量がない
⑵ 会社の経営方針等の決定に関与していない
⑶ 店舗運営で重要な職務を担っているものの、権限は店舗内のことに限られている

店長の本来の給料

 ここで、次の条件で働く店長Aさんの本来の給料を算出してみましょう。Aさんは、残業をしているのにも関わらず一切残業代の支給がされていません。

〇基本給25万円(交通費や各種手当を抜いた額)
〇所定労働時間は8時間
〇週6日勤務(月26日出勤)
〇1日13時間働いている

 残業代を計算するためには、まずAさんの月の所定労働時間を算出する必要があります。
1年間は約52週あるので、40時間×52週=2,080時間。これで1年間の所定労働時間が算出できます。

これを12ヶ月で割ると、1ヶ月の所定労働時間を計算出来ます
2,080時間÷12ヶ月=173時間

 所定労働時間を算出した後は、1時間あたりの賃金を算出します。
250,000円(基本給)÷173時間=1,445円

所定労働時間が8時間にも関わらず毎日13時間働いているということは、1日5時間の時間外労働をしていることになります。
1日の残業代は、1,445円×5時間=7,225円

さらに1日8時間以上働くと法定労働時間を超えるため25%割増した賃金になります。7,225円×1.25=9,031円

 ここに1ヶ月の出勤日数26日をかければAさんの1ヶ月の残業代が分かります。
9,031円×26日=234,806円

なんと、Aさんは236,806円の未払い残業代が発生しているのです。基本給と残業代を合わせれば、月収は50万円近くにまで上ります。

店長Aさんのように、残業代が支払われず働いている方は少なくないのではないでしょうか。

※厳密に計算をすれば、休日出勤や深夜割増等もあるため、さらに残業代は増額されますが、ここでは割愛させていただきます。
→厳密な残業代の計算方法についてはこちらで詳しく説明をしています。

サービス残業代を請求する方法

 以上のことをお読みになったうえで、サービス残業をさせられている可能性がある方は未払い残業代の請求を考えた方がよいでしょう。
 未払いの残業代を請求するためには残業をした証拠が必要です。これは、立証責任(確実な証拠で証明する責任)が請求者にあるためです。

 タイムカードで勤務時間の管理をしっかりしているのであれば十分な証拠になります。しかし、多くの飲食店では使用していないか、タイムカードを打刻してから残業をしています。

 そのため、タイムカードに代わる以下の証拠が必要です。

・パソコンの日報送信時間
パソコンのログイン・ログオフ時間
・FAXの送信時間
・iPadやパソコン使った業者への発注時間
・業者へのメール・電話履歴
・手帳や日記に記したメモ
・社判が押された出勤簿
・メールの送受信記録
・セキュリティカードの記録
・シフト表

 まずは、以上の証拠になるものを入手したうえで、こちらの記事「会社と荒波を立てずに残業代を請求する方法」を読んでみてください。残業代請求に向けてするべきことが理解出来るでしょう。

 また、以上の証拠が用意出来ないという場合は、残業をしていることを証言してくれる証人を探すのも一手です。飲食店において、証人は重要な証拠になる可能性があります。
 というのも飲食業の場合、アルバイトや派遣社員等、必ずしも経営者の味方でない労働者がいるためです。

これが、正社員をメインの職場となると「証人」=「会社の敵になる」という気持ちが先行し、請求者の証人になってくれる人がなかなか見つかりません。
 その点、飲食店の場合は証人を見つけやすいのです。仕入れ業者等との関わりも多いため、社外の人も証人となってくれる可能性があります。

残業代に関する困りごとは弁護士へ相談を

飲食店では「定額残業制」と「名ばかり管理職」のよるサービス残業がはびこっています。この2つは、飲食店では「残業代なし」という慣習の名の下に行われている悪しき風習とも言えるでしょう。その慣習に屈してしまってはAさんのように多くの残業代が支給されないというケースも起きかねません。

そうならないためにも、労働者自身が知識を身につけ、飲食業界に蔓延する「残業代なし」に打ち勝つ必要もあるのです。

もし、不当な扱いで残業代が未払いである際は、残業代の請求を検討してみてください。

そこで頼りになるのが「弁護士」の存在です。

法律のプロである弁護士なら、個々の状況に合わせて相談に乗ってくれるだけでなく、労働上で起きやすいトラブルを未然に防いでくれます。

労働トラブルに詳しい弁護士に相談し、自分の身を守りましょう。

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